鉄道他社はどう決断?東急「運賃値上げ」の論理 JR東は「プラスマイナスゼロ」で国と交渉中

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駅の運賃表を取り替える様子。値上げが実施されれば表も交換することになる(編集部撮影)

新型コロナウイルス感染拡大の影響で鉄道の旅客輸送が大幅に落ち込み、2020年度における鉄道各社の決算は過去に例を見ないほど悪化した。2021年度は足元では旅客数が回復傾向にあるとはいえ、8〜9月までの低迷が響き、今期の状況も芳しくない。

コロナ禍で毀損した財務体質を立て直すため、運賃値上げに活路を見いだそうとする動きが出てきても不思議はない。しかし、運賃値上げは国の認可事項であり、現行の国の運賃制度は過去の損失を将来の値上げで埋め合わせることができるようにはなっていない。

運賃は動力費、人件費など鉄道運行に伴う費用に支払利息や配当も加えた「総括原価」に見合う水準で決定される。もし運賃などの収入で総括原価を賄えない、つまり赤字の状態が将来にわたって続くのであれば値上げの理由になるが、コロナ禍が収束すればコロナ前ほどの高水準ではないとしても黒字を計上できるのであれば、値上げを申請しても認められない可能性が高い。

東急「2022年1月に値上げ申請」

JR西日本の長谷川一明社長は、「今後3年間にわたって赤字が続くなら値上げが認められるだろうが、当社はそのような計画は持っていない」として、運賃値上げについては否定的。これと同様の見方を示す鉄道会社は多い。本音では値上げしたくても、今後黒字に持ち直すのであれば現行制度での値上げは難しい。

そんな中、東急が運賃値上げに名乗りを上げた。「なぜ東急は運賃値上げを申請できるのか」と、多くの鉄道関係者がいぶかりつつも、固唾をのんでその成り行きを見守っている。

東急の鉄道事業を担う東急電鉄は2021年5月14日、「お客様の負担増を極力抑えた形での運賃改定についても検討する」という方針を打ち出した。それから半年、11月10日に発表された2021年度第2四半期決算では、「2022年1月に国土交通省に申請を行う予定」と、さらに踏み込んだ説明を行った。改定率は10数%で、実質的な増収率は10%未満を想定。初乗り運賃は130円から140円へと10円の値上げとなるという具体的な表現が並ぶ。2023年春の実施を目指す。

次ページどんな理屈で値上げの必要性を訴える?
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