鉄道他社はどう決断?東急「運賃値上げ」の論理 JR東は「プラスマイナスゼロ」で国と交渉中
しかし、東急の業績が運賃値上げを迫られるほど逼迫しているかというと、そんなことはない。東急電鉄を中心とした鉄道事業の営業利益は2020年度が159億円の赤字で、2021年度も20億円の赤字が見込まれている。しかし、コロナ禍前の2018年度は248億円の黒字だった。このままコロナ禍が落ち着きを見せて旅客数が上向けば、2022年度は営業黒字に戻る可能性が高い。そこから支払利息や配当を差し引いても運賃収入が総括原価を下回ることは回避できそうだ。
そもそも、鉄道事業を行う会社が赤字でも、東急グループ全体では2021年度は250億円の営業利益が予想されている。不動産などほかの事業が鉄道の赤字をはるかに上回る黒字を叩き出しているからだ。
こう考えると東急の値上げ申請が認められるとは考えにくいのだが、東急は別の角度から値上げの必要性を迫る。それは、「大手民鉄でトップレベルの安全性を維持している」というものだ。
「高水準の安全投資続けてきた」
東急は東横線、田園都市線、大井町線、目黒線という主要路線の全駅にホームドアを設置済み。池上線と東急多摩川線にはセンサー付き固定式ホーム柵を設置し、世田谷線とこどもの国線を除けば、「大手民鉄で初めてホームドア、センサー付き固定式ホーム柵の設置100%を達成」している。さらに、2019年度の運転事故件数は大手民鉄16社中最も少なく、輸送障害も2番目に少なかった。
東急の髙橋和夫社長は、「当社は他社に先駆けて高水準の安全投資をし続けてきた」と胸を張る一方で、「安全を維持するためには今後もお金がかかるが、今の環境下では厳しい」と話す。値上げをしなければ従来のような高水準の安全投資ができないという理屈だ。ホームドアは全駅に設置済みであり、これ以上の整備が必要かという気もするが、同社では収益悪化で駅改良や法面補強などの工事が先送りになっている。という同社担当者は「今後高齢化がさらに進展すれば、駅構内の移動はもっとスムーズに行われる必要がある。たとえば、現在1カ所設置されているエレベーターをもう1カ所増やすといったことも考えられる」と話す。
2022年度期以降の鉄道事業の業績が黒字化すること見込んでいるのかどうかについて東急側は口をつぐむが、こう考えると、東急は総括原価とは別の論法で国と交渉するようだ。
加えて、JRやほかの大手私鉄と比較すると東急の運賃水準が低いことも有利に働きそうだ。「東急の値上げ申請理由が使えそうなら使いたい」とこっそり打ち明けてくれた鉄道会社の幹部もいたが、高水準の設備投資実績や低い運賃を根拠にした論法は、どの会社でも使えるというわけではなさそうだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら