鉄道他社はどう決断?東急「運賃値上げ」の論理 JR東は「プラスマイナスゼロ」で国と交渉中

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一方で、国のほうにも新たな動きがあった。11月19日、斉藤鉄夫国交相は定例会見で「鉄道駅のバリアフリー化を推進するため、新たな料金制度を検討している」と述べた。具体的にはエスカレーター、エレベーター、ホームドアなどを整備する際は、その設置費用やその後の維持費用を運賃に上乗せできるというものだ。上乗せ料金については「利用者に過度の負担感を与えないものとする」とされている。現在、国はこの新たな料金制度に関して現在パブリックコメントを募っている。

国の料金上乗せ施策は東急の運賃値上げの理由とよく似ている。ただ、東急の担当者は、「両者は別物。国の案はまだパブコメの段階であり、当社は当社で運賃改定の申請に向けた準備を粛々と行っていく」と話す。

「総括原価方式」見直しにつながるか

JRでは2020年7月にJR東日本の深澤祐二社長が利用状況に合わせた柔軟な運賃制度の導入を検討していると発言した。「生活スタイルの変化に合わせて運賃制度を変えていきたい。例えば、定期ならピークの時間帯よりもピークの前後に乗るほうがメリットのある商品を検討している」。この発言は2021年3月にSuica(スイカ)通勤定期券を使った時差通勤でポイントが貯まるサービスとして実現した。

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しかし、深澤社長は12月1日に行われた取材で、「今のところ4%くらいのお客様にシフトしていただいているが、それだけではちょっと足りない。もっとシフトしていただくためには定期運賃という基本のところを見直さないといけない」と発言、オフピーク定期の導入について国と協議中としている。なお、オフピーク時間帯の運賃を下げるだけでは今のJR東日本では経営的に厳しいため、全体の運賃を薄く広く上げることでプラスマイナスゼロになるようにしたいという。

そうなるとオフピーク定期の全体の運賃は上がることになるが、「運賃値上げの議論とピークシフトの議論は別物」として、深澤社長は値上げではないことを強調する。会社の収支としては値上げと値下げ合わせてプラスマイナスゼロとなり、従来と変わらないというのがその理由だ。鉄道の3密状態を解消したい。さらに、混雑を嫌って通勤手段を鉄道から自動車に切り替えた人を呼び戻したい。オフピーク定期の導入にはこんな願いが込められている。

このように見ていくと、東急とJR東日本の取り組みは総括原価方式に基づく従来の運賃値上げとはまったく異なることがわかる。どうやら、コロナ禍を経て運賃制度のあり方そのものが見直しを迫られているようだ。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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