積極的な課題挑戦が自分を成長させる近道--『私は変わった 変わるように努力したのだ』を書いた福原義春氏(資生堂名誉会長)に聞く
--「幸せと不幸せは……必ず一緒に来るということだけは肝に銘じておこう」との長めの一文もあります。
それには、忘れられないアメリカでの経験がある。当時大口の30万ドルの商品発注を総出で荷造りして送り出した。すると、載せた貨車がいなくなったという。その分の注文がまた入って、なくなった分は保険料が取れるかもとも。これなら売り上げは倍になる。ところが、しばらくして引き込み線から貨車が出てきた。積荷は返品で戻される。2回荷造りしたあの手間は何だったのか。幸運か不幸か、変にいいことがあるなと思うと、これはいけない。
突然、社長で行ったアメリカではあれやこれやひどい目にあった。外貨の制限があって、投資の上乗せが許可されないのは何よりきつかった。しかし、そのときの経験が、その後の僕をつくったともいっていい。何が幸せなことか、何が不幸かはそのときにはわからない。
--持論の「スポンジ人間のすすめ」と結びつく話ですね。
人間が成長していくためには、まず与えられた課題に積極的に挑戦することだ。ちょうどスポンジが水を吸うように、外の世界のあらゆるものを吸収して自分の栄養にしていく心構えが必要だ。それは自分を成長させる近道でもあると思っている。
--社長時に手がけた不良在庫整理も、もう一つの好例ですか。
1987年に急に(本社の)社長になった。前からたくさんの在庫があることはわかっていた。それが会社全体の動きをスローにしていることを考えて、思いきって在庫を引き取った。それだけ売り上げを下げ、利益も下がった。今考えると、大変なことをしたものだ。
しかし考え方を変えてみると、その在庫整理は、前の前の社長あたりから積み上げていたからできたのであって、業績が順調だったらああいう仕事はできない。会社もその整理をきっかけにずいぶんよくなった。一時は、これだけの在庫を僕にしょい込ませるのかとうらみも言いたかったが、うまくいったらそれもどうということはない。