人が感動する物語をつくる2つの大きなポイント どん底の状態や悲劇があってこそ心を動かされる

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それでも、みなさんの好きな映画の中に、悲劇的なラストだったけれども心を捉えて離さなかった作品というのは必ずあると思います。実際、日本の歴代興行収入の上位3位のうち、1位『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』と3位の『タイタニック』は、悲劇という構造を持った作品です。

『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』では無念にも煉獄杏寿郎は敵の前に倒れますし、『タイタニック』ではジャックとローズは死別してしまいます。どちらも悲しい結末です。それにもかかわらず私たちは大きく心を打たれました。

『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』では、終盤、太陽が昇るからと逃げる敵・猗窩座を竈門炭治郎が追いかけて叫ぶシーンがあります。ストーリーのクライマックスと呼べるシーンです。「逃げるな」「煉獄さんは負けてない」と必死に叫ぶ炭治郎の姿は、見方によっては「負け惜しみ」を敵にぶつけているシーンと言われてもおかしくありません。しかし煉獄さんをはじめとする仲間たちがどんな思いで必死に戦っているかを叫ぶ主人公の姿に、私たちは感動しました。たとえハッピーエンドではなくても期待外れだと思わない、むしろ、だからこそ感動できたと思える例です。

もう1つ、『タイタニック』の例も考えてみます。『タイタニック』の見所と言えば、まもなく沈没するという状況でも貫かれた愛や、そこにいた人々の生きざまではないでしょうか。最後まで演奏をやめなかった楽団、潔く死を受け入れ身を寄せ合った老夫婦などの描写に感動した人は多いはずです。

つらい状況にいる人間の生きざまに共感する

戦争ものなど歴史的な事実を扱った作品には悲劇型が多くあります。史実として多くの人が亡くなったことを知っているからこそ、結末よりもその過程に集中することができ、プロセスに心を動かされやすいのです。悲劇は、つらい状況にいる人間の生き様に共感するための物語と言っても過言ではありません。

このように、人は期待に応えたクライマックスだけではなく、その過程においても大切な何かに気づくことができます。そこで描かれている内容次第では、クライマックスやボトムとの高低差に関係なく、人を惹きつけるのです。

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現代では、「高低差」的なカタルシスよりも、「共感」が求められている時代と言われています。不確実性が高く、成功やロールモデルも定義しにくいから、諦めない姿勢、難局における人間らしさこそが、人の心を動かします。

実際、映画などでも、主人公が派手な成功を納めるタイプのストーリーより、振りかかった危機や障害をなんとか乗り越えるというタイプのストーリーのほうが、ヒット作が多いのは顕著です。

映画でも人生でも、大きな視点で自分や他人のドラマカーブを理解しつつ、その高低差を意識するとともに、細部での共感要素を高めていくことが重要だと言えるでしょう。

たちばな やすひと プロデューサー

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Yasuhito Tachibana

1975年愛知県生まれ。東京大学理学部卒。有線ブロードネットワークス(現、USEN)、TBSグループの制作プロダクションであるドリマックス・テレビジョン(TBSスパークルに吸収合併)を経て2018年独立。プロデュースしたドラマは、『全裸監督』(Netflix)、『オー・マイ・ジャンプ!~少年ジャンプが地球を救う~』(テレビ東京)、『マリオ~AIのゆくえ~』(NHK BS)など。

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