日本の大手銀行の再編は収益性向上に寄与するが、引き続き課題も《ムーディーズの業界分析》
また、それぞれの特殊な状況も、統合を思案する上で、少なからず影響しているものと思われる。中央三井トラスト・ホールディングス、新生銀行、あおぞら銀行には、90年代後半から2000年初頭にかけて注入された公的資金がいまだ資本の中に残存している。これら公的資金は、強制転換権付き優先株の形で注入され、その後転換期限を迎え、大部分が普通株式に転換されている(あおぞらの場合は、いまだに優先株のまま残存している)。
したがって、最終的に政府が資金を回収するには、保有している普通株式を市場で売却することによってのみ可能となるが、それには株価のさらなる上昇が不可欠である。株価が上昇するには、収益力を強化し、企業価値を高めることが重要となるが、そうした意味においても、特定分野に注力している銀行同士が統合することにより、営業基盤が強化されれば、収益力の向上につながるものと考えられる。
一方、邦銀の収益水準は、他国の金融機関との比較において低い状況が続いており、こうした収益構造はここ数年間で大きく変化するものではないとみている。よって、統合後の銀行の収益力は、統合後のビジネスモデルと、注力している市場の伸びにもよるが、厳しい競争環境、ならびに国内市場の景気低迷の現状を考慮すると、統合による成果は短期間では達成しえない可能性があろう。
今年5月に入り、新生銀行とあおぞら銀行から、計画していた合併については解消するとの正式発表があった。合併は解消したが、今後とも業務提携等も視野に入れ、両行とも新たなビジネスモデルを構築していく、としている。しかしながら、事業基盤が限定的である両行にとって、単独で事業を続けていくには収益面において今後も課題が残るものと思われる。したがって、今後両行を含めた新たな再編が起きる可能性も否定できない。
背景
日本の銀行業界における大手銀行の再編については、2006年1月、東京三菱銀行とUFJ銀行の統合により国内最大手となる三菱東京UFJ銀行が誕生したのち、ここ数年間、大きな動きはなかった。しかしながら、昨年後半に、日本の銀行業界において新たな再編の動きが出てきた。
昨年7月、新生銀行とあおぞら銀行が本年10月に合併すると発表し、続いて昨年11月には、住友信託銀行と中央三井トラスト・ホールディングスが11年4月をメドに統合持ち株会社を設立することで基本合意に達した、との発表がなされた。