「第3の歴史決議」で見えた習近平の権力と脆弱性 「中国の特色ある社会主義」とは共産党一党独裁

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もちろん権力集中は内政問題だけではない。決議文には「党が対外活動を指導する体制・仕組みを整え、対外活動でのトップダウン設計を強化し、中国の特色ある大国外交について戦略的構想をうち出す」とか、「中国の特色ある強軍」などという表現も登場している。

こうなると、外交交渉の場ではたとえ王毅外相であっても党が決めた方針をオウム返しで繰り返すことしかできなくなる。双方の妥協や譲歩によって合意形成を目指す外交は中国政府相手では成り立たなくなってしまう。

ナショナリズムや民族主義の称揚は不安の裏返し

「中国の特色ある社会主義」のもう1つの特徴は、社会主義というイデオロギーと中国の伝統や文化との融合を強調することによって、ナショナリズムや民族主義を強調している点だ。決議文では「人類の歴史上、外部の力を当てにし、外国のモデルをそのまま取り入れ、人の後についてまねばかりすることで強くなり栄えた民族や国家は1つもない。そのようなことをすれば、失敗をなめるか、従属国になるよりほかはない」などと民族性の重要性を繰り返し強調している。

中国は西側諸国の自由、民主主義などの普遍的価値を強く否定、批判し続けている。香港に対する一連の対応が示すように、民主主義的潮流が中国国内に広がれば、それが共産党一党支配の否定につながることを理解しているからであろう。

ここから浮かび上がってくるのは、共産党指導部の強気の姿勢とは裏腹の一党支配の維持、継続への不安ではなかろうか。共産党は毛沢東時代には抗日戦争や国民党との内戦の勝利、そして建国という歴史とそれらを支えてきたイデオロギーでその支配の正統性を獲得してきた。次の時代の中心人物の鄧小平は「改革開放路線」による経済成長によって正統性の確保に成功した。

しかし今、中国は経済成長に陰りが見えはじめるとともに貧富の格差拡大など数多くの深刻な社会問題を抱えている。共産党がこれから先、一党支配の正統性をどうやって確保するのかは悩ましい問題であろう。

定義の不明な抽象概念の乱用と、ナショナリズムや民族主義を煽って党や習近平氏への忠誠心を国民に強いる今回の決議文からは、習近平氏の圧倒的な権力の強さと同時に、共産党一党支配が抱える脆弱性も読み取ることができる。

薬師寺 克行 東洋大学教授

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やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

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