日本とドイツ「移民」の違いで生じた決定的な差 2000年前からローマの哲人が見抜いていた本質

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ここで注意しなくてはならないのが、君主政、貴族政、民主政は理想的状態にあることが前提で、それが堕落すると君主政は暴君による独裁政、貴族政は寡頭政(少数の者が権力を握る利権集団の政治)、民主政は衆愚政になる。

キケロが理想とする共和政においては、その主体である市民が政治的に成熟していなくてはならない。市民が公に対する責任を忘れ、個人的利益のみを追求するような状態になると、民主政は衆愚政に堕落するので、市民を力で抑え込む必要が生じる。

こうして、政治は独裁に傾いていく。この現象を最近では大統領制化と呼んでいる。

アメリカのトランプ前大統領、ロシアのプーチン大統領は在任中に自らに権力を集中させていった。議院内閣制の国においても大統領制化が起きている。

ドイツのメルケル前首相、イギリスのジョンソン首相も権力を自らに集中させた。

安倍晋三元首相、菅義偉前首相も権力を首相官邸に集中させた。コロナ禍がこの傾向を加速させた。

コロナ対策で迅速な行動が政府に求められるので、議会による手続きに費やす時間のあいだに、国民への被害が拡大するという懸念から、行政府への権力集中が起きたのである。

キケロの分類によれば、国家内で君主政の要素が強まっていることになる。

日本社会にもある民族問題

移民についてのキケロの見解も興味深い。

ギリシアの多くの都市と異なり、ローマ人は尊重すべき外国人(たとえば使徒パウロ)や、元奴隷ですら、完全な市民として迎えた。
ウォルスキ人の丘の街アルピヌムに暮らしたキケロの先祖たちは、前世紀にこうした市民権付与の恩恵を受けており、そのこともあって、彼はこの理念に共鳴したものと考えて良いだろう。
外部の人間を社会の対等な一員として快く迎え入れる国家は、より強力になるのであって、弱くなったりはしないというのがキケロの信念だった。(書籍内89ページ)
次ページ経済成長を維持するには移民を受け入れるしかない
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