コロナ禍の「2022年日本」をうらなう3つの視点 岸田文雄政権が直面する最重要課題とは何か

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着目点③中国はいったいどこに行こうとしているのか

3つ目は、中国の存在だ。中国は、2020年のGDPが14兆ドルと世界第2の経済規模を持ち、アメリカの21兆ドルに迫る勢いだ(日本は5兆ドル)。今や生産拠点としてグローバル・バリュー・チェーンの中心的な存在であるだけではなく、先進国、新興国、資源国にとって極めて重要な市場となっている。

2021年、2022年の成長も強いと予想される。その中国の政策が急速に内向き、権威主義的、覇権主義的になり、共産党の思想コントロールも強まっているように見えることは、世界の経済的な繁栄、地政学的な安定への大きな懸念材料だ。

中国がいったいどこに行こうとしているのかは、21世紀前半における地政学上、国際経済上の最も重要なテーマになってきている。米中はいずれも戦争を望んでいないが、意図せざる衝突が起きる可能性はないのか。米中を含めた各国経済は当面回復が見込まれるが、このまま経済のデカップリングが進み、世界経済や中国経済自体に深刻な影響をもたらすことはないのか。

市場の機能、外国との交流を基礎として発展し、国際社会でもプレゼンスを高めてきた中国が、改革開放以降にたどった道の意味を見つめ直し、内外にできるだけ穏当な政策を続けることを望まざるをえない。

岸田政権が直面する課題

世界が直面している問題はもちろん上記だけにはとどまらない。消費の回復に加え、コロナ禍を受けた生産やロジの問題、気候変動対策と石油やガスの供給制約などから米欧でインフレ率が上がっていることも懸念材料だ。

2008年の世界金融危機、そして、今回のコロナ禍に対応するために拡張した財政や金融政策をどう巻き戻していくのかも各国当局に問われている。高度技術やデータの活用と必要な対応、社会の分断拡大、脱炭素社会への取り組み、ジェンダー問題、途上国支援なども、重要な課題だ。

2021年10月に発足した岸田文雄政権は、これらさまざまな世界的な課題、そして日本の抱える問題に果敢に取り組んでいかなければならない。日本は、アメリカの同盟国であり、中国と歴史的に強いつながりを持つ隣国でもある。人口減少をはじめ、課題先進国といわれることもある。成長のシードを多く持つ国であり、1990年代から続く成長の低迷、デフレ的な状況もどこかで反転させ、活力ある経済を取り戻さなければならない。

そのためには、本当に困っている人々への「分配」を強化しつつ、財政の持続可能性の道筋を示し、将来への不安を取り除く必要がある。同時に、官民の資源の「配分」を見直し、将来の成長を助ける分野への投資、教育や研究開発などに振り向けていくことが不可欠だ。

11月19日に刊行した『経済がわかる 論点50 2022』は、日本経済、海外経済、金融・マーケット、制度・政策、ビジネス・社会の5つの領域における50の論点を解説したものである。日頃のリサーチの集大成として当社の専門の研究員・エコノミストが執筆に当たった。それぞれの論点を、紙幅の制限のなかで可能な限り明瞭に、わかりやすく解説することに心がけた。

この2022年版では、プラットフォーマー規制、デジタル庁、ワクチンパスポート、サステイナブルファイナンス、量子コンピューターなどの新しい論点を取り上げている。もちろん、上記のような世界的な課題に関連する論点も含んでいる。

中尾 武彦 前アジア開発銀行総裁、みずほリサーチ&テクノロジーズ理事長

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なかお たけひこ / Takaehiko Nakao

1956年生まれ、1978年大蔵省入省。東京大学経済学部、カリフォルニア大学バークレー校経営大学院卒。IMF政策企画審査局、在ワシントン日本大使館公使、国際局長、財務官などを経て2013年4月から2020年1月までアジア開発銀行総裁。現在、東京大学公共政策大学院、政策研究大学院大学で客員教授を兼任(主として留学生向けに国際金融、アジア開発史の授業を担当)。

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