これまでも、世界は危機のたびに進歩し、より強くなってきた面がある。新型コロナも、終わってみれば、行政、医療、教育を含めた各分野でのオンラインのさらなる利用、より分散し、自然と親しむような生き方の見直しなど、ポジティブな影響をもたらす可能性がある。つまり、過度に悲観的になる必要はないのだが、同時に、世界の不確実性はさまざまな点で高まっているといわざるをえない。以下に私なりの着目点を挙げる。
2022年の世界と日本をうらなう3つの着目点
まずは、もちろん新型コロナの行方だ。一定の有効性を持つワクチンは予想された以上に早く開発され、多くの国でその接種も進んだ。それによって、感染者、重症者、死亡者の数も抑制された。
しかし、ワクチンは途上国には行き渡っておらず、ウイルスを世界的に抑え込まなければ人の行き来は妨げられ続けるし、いつ新たな感染が始まるかもわからない。現に、デルタ株の感染拡大により途上国の工場での生産が滞り、部品の供給が目詰まりし、先進国の工場でも自動車やデジタル機器の生産に支障が出ている。感染力の強いデルタ株の猛威はピークを過ぎたようにもみえるが、ワクチンの有効性が弱まって感染が再拡大している国もある。新たな変異株の出現には引き続き注意をしなければならない。
完全な収束が簡単ではないとすれば、当面は新型コロナと共生していくほかはない。『経済がわかる 論点50 2022』で太田智之チーフエコノミストが書いているように、行動制限に関する政策判断の基準を新規感染者数から医療体制への負担と直結する入院者数、重症者数、死亡者数に変更し、経済活動の正常化を進めることが考えられる。
そのためにも、各国においてワクチン接種の拡大、場合によっては再接種を進め、検査数を増やし、病床数などの体制を整えておくとともに、新しい変異に備えたワクチンや治療薬の開発、生産を推進しておく必要があろう。
2つ目はバイデン政権が発足して1年が経とうとしているアメリカだ。
2021年1月20日に発足したバイデン民主党政権がどの程度果断な政策を打ち出すのかという点については、就任時に78歳という高齢、36年にわたる上院議員の時代に共和党との妥協を模索した温和な性格などから、かならずしも期待は高くなかった。
しかし、大統領就任後は、「中間層」のためのアメリカを取り返すという目標を定めて、次々と大規模な財政出動策を打ち出すとともに、外交面でも日本や欧州諸国などの伝統的な同盟国との協調を再強化し、中国の戦略的なあるいは技術的な台頭に対抗する姿勢を鮮明にした。
アメリカ社会の分断を和らげ、中国の地政学的な台頭を牽制するという意味では、外からみれば妥当な政策を掲げていると思われるバイデン大統領だが、期待どおり成果を上げるかどうかはわからない。最近は、上院で半数の50議席にハリス副大統領(上院議長)を加えてどうにか多数を持っている民主党内で、保守派の議員の反対によりバイデン法案が進捗しない事態が起きている。
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