「工場畜産」の爆発的拡大が生む百害 食肉急拡大に地球環境は耐えられない

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肉や乳製品を過度に摂取すると、肥満や循環器疾患など健康問題の原因となる。また、動物を閉鎖空間で高密度で飼育すると、鳥インフルエンザなどヒトに感染する可能性のある感染症が拡大しやすくなる。そうした病気の予防(と成長促進)のために家畜に抗生物質を低量投与すると、抗菌薬に対する抵抗力が強まり公衆衛生を危機にさらしてしまう。

動物自体が恐ろしい状況に苦しんでいる。畜産業界が、動物福祉に関する合理的な基準の適用に抵抗しているからだ。寡占による急成長で政治力をつけた工場式畜産業者は、本来負担すべき社会的コスト・環境コストを、勤労者や納税者など一般国民に転嫁している。

放牧型の畜産を支援するべき

EUでは、畜産システムの歪みを大幅に軽減するには「共同農業政策」(CAP)の主要2項目を改定すれば足りる。

まず、遺伝子組み換え飼料の輸入を禁止し、畜産業者が自ら飼育する動物に与える飼料の半分は自家農場で生産するよう義務づける。世界の栄養バランス不均衡は是正され、モンサントなど多国籍の農業バイオテクノロジー企業の力は減じる。さらに、動物の糞尿は長距離輸送の必要がなくなり、畜産業者が自らの土地に施肥して飼料生産に活用できる。

第二に、飼料および灌水設備への抗生物質の不必要な投与を禁止すべきだ。そうすれば動物が病気になった際に、畜産業者は獣医学的診断に基づき個別に治療せざるをえなくなる。

米国では、FDA(食品医薬品局)が抗生物質の非治療的使用を禁止してはどうか。また、米国農務省の農業法案プログラムが、もっと持続可能性の高い食肉生産方式の奨励を目的に、放牧型畜産への支援を拡大してはどうか。

新興諸国の中流層が増大する今日、食肉の生産・消費に関する既存の先進国モデルは、未来の健全な青写真ではない。環境保護、社会、倫理の観点から私たちが限界を見定め、その限界を超えないシステムを生み出すべき時が来ている。

週刊東洋経済2014年9月6日号

クリスティン・ケムニッツ ハインリッヒ・ベル財団国際農業政策部長

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ハインリッヒ・ベル財団国際農業政策部長。ベルリンに本拠を置くハインリッヒ・ベル財団で食糧問題などに関する文章を投稿。

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シェファリ・シャルマ 農業・貿易政策研究所ディレクター

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農業・貿易政策研究所ディレクター。担当は農産品・グローバリゼーション。国際金融にも強く、インドや南アジアに焦点を合わせている。

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