台湾からの「視線」に日本が注意するべき理由 「コロナ対応」で自己肯定感を強める「台湾」

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コロナ禍で一時的に減少しているが、ポストコロナには中国と台湾との関係はまた緊密になり、以前のように中台間で毎日何十ものフライトが行き交い、多くの人が往来するようになろう。台湾海峡は確かに緊張度を増しているが、その台湾海峡を行き交う中台の交流も活発なのである。

中台をめぐる日本の現在とこれからの姿勢

台湾の重要性は冒頭に記したとおりである。日本にとっても、東アジア、あるいは西太平洋においても、そして米中間においても極めて重要な存在となっている。

その台湾をめぐって日本はどのような姿勢をとっていくべきか。1972年9月29日の日中共同声明には、「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」と記されている。これは現在も日本の台湾政策の基本だ。また、G7などで先進国が確認した「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促す」ということは、中国の台湾への武力侵攻、武力統一を牽制することを意味する。

この大枠を前提として、日本が考えなければならないことは、安保協力や経済関係強化をはじめ枚挙にいとまがないが、ここでは2点あげておきたい。

第1に、日台関係が総じて良好であっても、日台間に外交関係がないという制約があるということだ。例えば、日本の歴史や地理の教科書に台湾のことがどれだけ出てくるのか。韓国に比べれば極めて少ない。そして、日本の国立大学に固定化された台湾研究のポストはおそらく1つもない。国交がないこともあり、また台湾が「中華民国」であって台湾ではないという「建前」のためか、日本国内では制度的な意味での「台湾」は欠如している。したがって、小学校から教育を受けても台湾理解は深まらない。こうした制度的欠如が日本の台湾認識にもたらす問題への対策を講じ、日台交流の発展の基礎を改めて形成すべきだ。

第2に、中国により台湾が平和裡に統一されるとしたら、それをどう考えるのかについての議論を深めるということだ。そして、中国が台湾社会に対する浸透政策を進めるならば、中国に対抗するという意味合いではないにしても、日本社会と台湾社会との間でも対話や協力を進めていくことができないか検討すべきだろう。

台湾の重要性が増していることに鑑み、改めてその存在の意義や関係性について考え直し、日台関係を再構想する時期に来ているのではないかと筆者は考えている。また、日本自身の台湾への理解を一層深めることも今後の課題だ。例えば、中国と台湾とがCPTPPに加盟申請したのを見て、中国は反対、台湾は賛成として、台湾の加盟を支えようと積極的になっていいのかどうか、立ち止まってみる必要があろう。なぜ蔡英文政権は、中国が申請に踏み切るまで申請できなかったのか。それにはいくつか理由があるが、たとえば「食の安全」などに極めて敏感な台湾の総統である蔡英文にとって、CPTPP加盟申請は国内政治の面で極めて危険な賭けである面があるからだ。こうした台湾社会に寄り添った理解もまた一層求められるところであろう。

川島 真 東京大学総合文化研究科教授

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かわしま しん / Shin Kawashima

専門はアジア政治外交史、中国外交史。1968年東京都生まれ。92年東京外国語大学中国語学科卒業。97年東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学後、博士(文学)。北海道大学法学部助教授を経て現職。著書に『中国近代外交の形成』(名古屋大学出版会、2004年)、『近代国家への模索 1894-1925(シリーズ中国近現代史2)』(岩波新書、2010年)など。

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