リニア新幹線と標高3000mの自然の気になる関係 生物多様性維持という観点で懸念を払拭できるか

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後日、板井部会長に電話で話を聞いた。「移植するといっても、どこにするのか。遺伝的な撹乱を防ぐには、できるだけ近い場所への移植が好ましいが、その沢や川は、水が減らないのか」。JR東海の説明には不明な点が多い、と板井部会長は感じているようだ。

登録更新手続きに欠かせない将来像

南アルプスは2014年6月、ユネスコの生物圏保全地域に登録された。生物圏保全地域は生物多様性と生態系を保全し、自然保護と人々の生活の両立した持続可能な発展を目指すモデル地域で、日本ではユネスコエコパークと呼ばれ、現在10か所が登録されている。

登録から10年ごとに審査を受け、“合格”すれば登録が継続される。地元自治体が審査を受ける際の書類を作成し、文部科学省を通じてユネスコに提出する。南アルプスの場合、2023年には書類を完成させ、文科省に出す必要がある。その際、リニア中央新幹線の建設事業によりどの程度影響が生じるのか、事業者、政府、県をはじめ地元自治体はどのように対処するのか、明確に示さなくてはならない。

JR東海は、県の生物多様性部会専門部会委員の指摘に対し、どう答えるのか。10月22日のやりとりを踏まえ、改めて聞いた。

JR東海の回答によると、尾根部の地表部の植生と山の深い位置にある地下水との関係について、「今後、尾根部の湧水の成分分析を行い、局所的に地下水の流れが地表部までつながっているものかどうかを確認したいと考えている」「工事中においても、地表部の湧水とトンネルを掘削した時に出るトンネル湧水の成分の比較を行い、地表付近の水と地下水の関連について確認していきたい」とし、「地表部のどの地点での湧水を分析するのかについて、委員のご意見を踏まえて取り組んでいきたい」と答えた。

また、専門部会委員から「沢の流量の減少を回避もしくは低減する方法が十分に示されていない」と指摘された点については、「ご意見の趣旨を確認しながら、できる対策を精一杯実施していきたい」と述べている。

JR東海は、南アルプスユネスコエコパークが10年目の認定継続審査に通るようなデータを示せるのか。研究者や登山者、市民の懸念を払拭できるのか。世界で自然生態系、生物多様性の保全への懸念が高まる中、関心は高まりそうだ。

河野 博子 ジャーナリスト

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こうの ひろこ / Hiroko Kono

早稲田大学政治経済学部卒、アメリカ・コーネル大学で修士号(国際開発論)取得。1979年に読売新聞社に入り、社会部次長、ニューヨーク支局長を経て2005年から編集委員。2018年2月退社。地球環境戦略研究機関シニアフェロー。著書に『アメリカの原理主義』(集英社新書)、『里地里山エネルギー』(中公新書ラクレ)など。2021年4月から大正大学客員教授。

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