リニア新幹線と標高3000mの自然の気になる関係 生物多様性維持という観点で懸念を払拭できるか

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同ネットワークは9つの団体により構成される。登山者の団体が大半を占める。諏訪部さんは「特に荒川前岳南側斜面は南アルプス最大の花畑。シカの食害を防ぐためにそのエリアの周辺には防鹿柵を張り巡らしています。こういう努力を積み重ねているのに、砂漠化して植物が育たなくなってしまうなんてことは、許されないです」

夏場にはシカの侵入を防ぐ防鹿柵が張られる。(写真:諏訪部豊氏提供)
この夏、8月1日には残り少なくなっていたシナノキンバイ(写真:諏訪部豊氏提供)

沢枯れや減水が起きるとヤマトイワナは生きていけない

標高3000m級の山々が連なる南アルプスの地層は、今から1億年~2000万年前は海の中だった。南アルプスの岩盤の岩石の大半が砂岩(砂が押し固められてできた岩)と泥岩(泥が押し固められてできた岩)からなるのは、その形成史を反映している。

また、今から7万年前から1万年前まで続いたとされる「最終氷期」の名残とされる希少な生物が生息するのも、南アルプスの特徴だ。

イワナの亜種、ヤマトイワナはそうした「氷河期遺存種(氷河期からの生き残り)」のひとつだ。静岡県の「絶滅危惧IA類」に指定されている。動物生態学の専門家で、県の生物多様性部会長と専門部会長の両方を務める板井隆彦氏によると、ヤマトイワナは夏の水温が15度より高いところでは住めない。南アルプス・大井川源流部など山の上流部のごく狭い範囲で生息している。南アルプスの地下水位が下がり、沢の水が減ると、水温が上がる。水量のある下流に逃げても水温が高くて、イワナは生きられないという。

10月22日の生物多様性部会専門部会でJR東海は、沢の流量や動植物の定期調査を行い、生態系への影響が生じる可能性がある場合には、移植に向けて準備を進め、実施すると述べた。

これに対し、専門部会委員からは、「移植の実施ありきで、沢の流量の減少を回避、低減する方法が十分に検討されていない」との声が上がった。

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