来春激変「高校歴史」暗記だけじゃない学びの中身 新設される科目「歴史総合」の3つのポイント

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その3つとは、以下のものである。

●近代化(18世紀後半~現在)
●国際秩序の変化や大衆化(19世紀後半~現在)
●グローバル化(20世紀後半~現在)

18世紀後半からの「近代化」では、「工業化」「世界市場」「政治変革(市民革命)」「国民国家」「立憲体制」「帝国主義」などを学ぶ。19世紀後半以降の「国際秩序の変化や大衆化」では、「総力戦」「国際協調」「大衆社会」「社会運動」「恐慌」などを学ぶ。

そして、さらなる特徴は、近現代の歴史と現代の課題の関わりを考察するような流れになっていることだ。

例えば、20世紀後半の「グローバル化」の中で、自由とその制限、平等や格差を学んだのちに、それが現代の課題とどうリンクするかを考察させるような構成になっている。授業によっては、選挙権は当初はなぜ男性だけだったのか、女性の権利拡張が進んだはずの現代でもなぜ今も女性の賃金が安いのかなどの「問い」が生徒から出てくるかもしれない。歴史上の問いは実は現代につながっているのだ。

歴史を現代に生かすことの重要性は、昭和史、とりわけ昭和の戦争について多くの著作を発表してきたノンフィクション作家の保阪正康氏もこう指摘する。

「戦前、日本はファシズムが支配したが、今のコロナ時代にも同じような危険性の萌芽がある。新型コロナウイルスへの対処では、私権の制限などもやむをえないかもしれない。しかし超国家主義的な動きには警戒が必要だ」

コロナ時代と昭和の初めの共通点

昭和の初め、金融恐慌や世界恐慌によって、農民や都市の末端労働者は疲弊し、その苦しみや怨嗟の声が青年将校らの国家改造運動に正当性を与えた。犬養毅首相が暗殺された5・15事件や、大規模なクーデターであった2・26事件である。5・15事件の後、テロの首謀者たちには国民からの共感と同情が集まった。

保阪氏は、世論が急激に変わっていく過程を昭和史のノンフィクションで描いてきた。

「ファシズム体制を支えた感情とは、恐慌に対する無策の結果として浮かび上がる情念」と語る保阪正康氏(写真:尾形文繁)

「恐慌は、資本主義国家としての基盤が脆弱な日本を脅かし、国民は動揺した。恐慌の原因と結果は、いうなれば可視化されたものだった。その中で、国民の意識はファシズム体制を支えた。

その支える感情とは、恐慌やそれに対する無策の結果として浮かび上がる情念であり、その情念の一元化が日本の超国家主義思想へと転じていった。

今回のコロナとの共通性を感じるのは、可視化できる原因と結果について、ときに感情ばかりを前面に置き、理性や知性とは無縁の態度を取ってしまうことだ。感染症の対応を通じても、歴史の教訓や警告を受け取ることができる」

つまり、歴史を学ぶことは現代を考えることにつながるのだ。

長谷川 隆 東洋経済 記者

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はせがわ たかし / Takashi Hasegawa

『週刊東洋経済』編集長補佐

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