野心的な脱炭素目標実現に絶対必要なものは何か 環境政策に邁進しすぎると一体どうなるのか

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これらの2030年までの計画は、「野心的な目標」であることが強調されている。確かに再エネ比率目標は36~38%まで引き上げられたが、65%への引き上げに向けて法改正を行ったドイツなどと比べると低い。COP26の議長国で成果をあげたいイギリスなどからは、日本は石炭電力を2030年時点でも維持する計画なので、目標引き上げを迫られる弱い立場に終始した。

ただ、それでも、菅前政権において最初に掲げたこの目標自体はかなり背伸びした野心的な目標であり、日本の事情をしっかり説明して国益を損なわない対応が必要なことはいうまでもない。

脱炭素に向けて高い目標を掲げて目指すことそのものは、筆者は望ましいと考えている。安全保障体制強化のために、民主主義体制を保つ米欧諸国との外交関係を強固にする観点から、脱炭素政策に取り組む姿勢を諸外国にしっかり伝えることは、日本の政治家の大きな責任の一つだろう。

一方で、以下の2つの政治的な理由から、この野心的な目標の実現可能性は現状低いと筆者は考えている。まず原発の再稼働が政治的に難しいことである。現状再稼働している10基の原発の数をどの程度増やせるか。止まっている26基をすべて稼働させれば原発の電力供給は3.7倍に増えて、目標とする20~22%の電源構成比率実現が見えてくるだろう。ただ、原発稼働に至るには、地方自治体の許可が必要で、原発への否定的な世論と政治情勢を踏まえれば、2030年までに実現する政治的なハードルはかなり高い。

電力融通に欠かせない送電網強化への意外な障害

また、安定的かつ機動的な発電が難しい再生エネルギー比率を大きく引き上げるには、送電網増強など電力供給体制を大きく見直す必要があるだろう。地域間での電力融通を実現させる送電網強化には数兆円規模の投資が必要とされているが、この計画の見通しは依然はっきりしていない。電力送電の体制を大きく変えることは、現行の電力会社の組織のあり方の見直しにつながるので、原発再稼働と同様に、政治的に高いハードルになる可能性がある。現状、これらの政治課題に取り組む強い政治姿勢は、岸田政権からみられない。

また脱炭素目標の実現にトライすること自体は賛成するいっぽうで、やり方、進め方を間違えるリスクを同時に強く警戒している。省エネや新たなエネルギー実現には、先にあげた政治問題に取り組むだけではなく、技術革新という科学の力が必要であり、それが成功するかは誰にもわからない。不確実性が大きい中で、仮に、高いエネルギー削減目標だけが独り歩きすると、将来経済成長を大きく阻害するリスクがある。こうなっては、「持続的な社会実現」の観点から本末転倒だろう。

もちろん、目標実現のために、省エネやクリーンエネルギーを実現させる技術革新を政府がサポートするのは望ましい。政府資金が技術革新を後押しするために、すでに菅前政権においても2兆円規模のグリーンイノベーション基金が作られて稼働している。

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