実際、マクロ経済スライドは、2004年に導入されたにもかかわらず、2015年までの期間に、一度も発動されなかった。
ただし、調整できなかった分を、賃金・物価が上昇したときに調整する仕組み(キャリーオーバー)が2018年4月から導入された。
この措置は、すでに実施されている。今後も、キャリーオーバーによって年金が減額される可能性が十分ある。
また、名目年金額を減らさないという制約が、外される可能性もありえなくはない。そうなれば、実際に受給できる年金額はかなり減る。
あまりに楽観的な財政検証
第2の、より重大な問題は、政府が言う意味での「100年安心年金」でさえ実現できる保障はないことだ。なぜなら、財政見通しが甘すぎるからだ。
2019年の財政検証では、実質賃金の上昇率が実質GDPの成長率より高いという、何とも奇妙な仮定が置かれている。
実質賃金が上昇すれば、保険料率を一定としても、保険料収入は増加する。他方で、年金給付は、その年度に新規裁定される分は増えるが、既裁定の年金は増えない。既裁定年金は、インフレ率に対してだけスライドする。
だから、年金財政は好転するのだ。
年金財政が維持できるとする大きな理由は、実質賃金上昇率として非現実的に高い値を仮定しているからだ。しかし、こんな都合のよいことが起こるはずがない。
したがって、将来何らかの対処が必要になることは明らかだ。政府が「行わない」としている措置が必要になることもありうる。
保険料引き上げや基礎年金に対する国庫負担率の引き上げなどが考えられるが、難しいだろう。政治的に抵抗が少ないのは、マクロ経済スライドの強化と支給開始年齢の引き上げだ。
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