ところが、麻生太郎財務大臣(当時)は、「あたかも公的年金だけでは足りないかのような誤解、不安を与えた」として、報告書の受け取りを拒否するという挙に及んだのである。
これに対して、野党は「逃げ工作、隠蔽工作だ」と批判した。
それ以来、この問題は深く議論されることがなく、うやむやのままで放置されている。
先般の総選挙でも、この問題が議論されることはなかった。
したがって、「老後生活に向けてどのような準備をすべきか?」という指針は、いまだにうやむやのままになっている。
しかし、これから老後を迎える人々にとって、これは大変重要な問題だ。うやむやのままにしておくことはできない。
政府は何を恐れたのか?
いったい、政府は、何を恐れて報告書の受け取りを拒否したのだろうか?
私は次のようなことだと思う。
前記報告書は、
・実収入=月20.9万円(年250.8万円)
・不足額=5.5万円(年66万円)
という厚生労働省の資料を援用して、必要年数=30年として必要額=1980万円としている。なお、実収入のうち、社会保障給付が月19.2万円(年約230万円)だ。
これは、「老後の生活費のうち7割強を年金が保障する」としているように読める(もちろん生活費も年金も、人によって異なる。これは、標準的な世帯に関するものだ。具体的な数字が人によって異なることは言うまでもない)。
しかし実は、これは政府が約束していることとは異なる。
あとで詳しく述べるように、年金の実際の支給額が生活費の7割より少なくなることは、政府が約束している範囲内でも、十分ありうることなのである。
しかし、報告書を受け取れば、「生活費の約7割を年金が保障する」という約束に縛られてしまうことになる。
政府が受け取りを拒否したのは、これに関する言質を与えたくなかったからだと思う。
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