銃誤射で2人死傷「人気アメリカ人俳優」の悲劇 原因は「映画の予算削減」のせいという見方も

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そんな夫妻は、来年で結婚10周年。昨年には6人目の子供が生まれた。5人目を産んだ後、わざわざ代理母を使ってまですぐに次を生んだことで、またもや騒がれたのだが、アレックは気にもとめず大家族との生活を気に入っている様子。

それなのに彼は、今あえて、自宅のあるニューヨークから遠く離れたニューメキシコ州で撮影される低予算映画『Rust』に出ようと決めたのだ。前に別の作品で組んでいるジョエル・ソウザ監督と一緒にストーリー作りにかかわり、プロデューサーも兼任する今作は、アレックにとって情熱のプロジェクトとのこと。シリアスな映画で久々に渋い役に挑戦できるのも魅力だったのかもしれない。

映画は、1880年代のカンザスを舞台にした西部劇。過ちで人を殺してしまい、死刑にされそうになった13歳の孫を守るべく、アウトローの主人公ハーランド・ラストは彼を連れて一緒に逃亡する。誤射事件が起きた時に撮影しようとしていたのは、映画の後半のシーン。

怪我をした主人公は教会に隠れており、孫が彼のために助けを求めて外に出たところへ、追手がやってきて銃撃戦になる。このシーンで銃を抜くアレックは、その練習中になぜか引き金を引いてしまった。そして、銃にはなぜか実弾が入っていた。あるはずのない実弾が撮影現場になぜあったのか、どうしてそれが小道具の銃に装填されていたのかは、警察が捜査しているところだ。

誤射の原因は「予算削減」のせい?

今作の製作予算は600万ドルから700万ドル。この内容の映画を作るには「十分でない」と業界関係者は見る。避けられるはずの悲劇が起きたのには、予算を切り詰めるため、安く使える人たちに危険な任務を担当させたことが関係しているようだ。

10人いるプロデューサーの中には、これだけの大事になってもどうにかして映画を完成させたいと思っている人もいるようだが、パパラッチに対する短いインタビューで、「製作は再開すると思いますか?」と聞かれたアレックは、「そうは思わない」と答えている。しかし、別の質問では、今後、撮影現場で安全のためのルールが強化されることになったら、「自分は完全に協力する」と述べた。

つまり、彼はまだ俳優としてのキャリアを続けるつもりでいるし、武器がからむアクション映画への出演を否定するつもりもないということ。それができるかどうかは、捜査の展開にかかっている。

今後は、プロデューサーのひとりでもあるアレックの責任がどこまであるのかにも焦点が当てられていくだろう。たとえ刑事事件としての起訴は逃れられたとしても、民事の裁判が起こるのはほぼ間違いないと見られる。アレック・ボールドウィンがアメリカに笑いをもたらす日は、再び訪れるのだろうか。

猿渡 由紀 L.A.在住映画ジャーナリスト

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さるわたり ゆき / Yuki Saruwatari

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

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