空前の「レコードブーム」に喜ぶ人、焦る人の実態 テイラー・スウィフトやアデルも苦しむ物不足
アンダーグラウンド・ロックのアナログレコード愛好家向け専門レーベル「ジョイフル・ノイズ・レコーディングス」がインディアナポリスに構えるオフィスには、従業員たちが「旋盤の洞窟」と呼ぶ一角がある。
そこにあるのは、電子レンジほどの大きさをした1940年代の古いレコード旋盤「Presto 6N」。まだ何も記録されていないレコード盤に溝を切る機械だ。百枚、千枚といった単位でプレスされる一般的なレコードとは違って、1枚ずつ溝をカットする。
ジョイフル・ノイズ・レコーディングスの創業者カール・ホフステッターは「信じられないほど手間がかかる」と話す。「3分の曲なら、溝のカットにかかる時間も3分だ」。
コロナ禍でLP販売数が劇的に増加
この旧式の技術が、同レーベルが火をつけるのに一役買ったレコード人気を乗り切る戦略の要となっている。1980年代のCDの登場によって見捨てられたレコードだが、今や音楽業界で最も人気が高く、デジタル以外のフォーマットとしては最大の売り上げを稼ぎ出す存在となっている。
ファンは、コレクション、音質、あるいは刹那的なデジタル時代に手で触れられるアナログな音楽体験を求めて、レコードを買っている。LP販売は過去10年以上にわたって着実に伸びてきたが、新型コロナ禍の中でその販売数は劇的に増加した。
アメリカレコード協会によると、アメリカにおける2021年上半期のレコード販売数は1700万枚で、売上額は前年同期の2倍となる4億6700万ドルを記録した。これに対し、同期間のCD販売数は1600万枚で、2億500万ドル。アメリカではストリーミングが収入の84%を占めており、形のあるレコードやCDは絶対額としては音楽ビジネスの一部を形成するにすぎない。