空前の「レコードブーム」に喜ぶ人、焦る人の実態 テイラー・スウィフトやアデルも苦しむ物不足
とはいえ、単純な需給バランスのほうが、これよりも大きな問題といえそうだ。レコードの需要は、業界の生産能力をはるかに上回る勢いで増加した。レコード生産は、老朽化したプレス機に依存しており、多くが1970年代以前のものという機械の維持費もかさんでいる。
ここ数年は新しい機械が導入されるようになっているが、そうした機械は1台30万ドルもする場合があり、その機械も受注残が積み上がって、すぐには入手できない状態が続いている。
レコードは25ドルで売れる貴重なアイテム
有名アーティスト、さらにウォルマートやアマゾンといった超大手の小売業者がレコード販売に一段と力を入れるようになったことで、レコード生産のインフラが限界にさらされるようになった。そうなった理由は明らかだ。CDの売り上げは減少し、ストリーミング配信で得られる微々たる報酬にアーティストは不満を抱いている。
そうした中、25ドル以上で売れる貴重なアイテムがレコードだったのだ。人目を引きつけるジャケットになっていたり、デザインにコレクター心をくすぐるバリエーションを持たせたりしている場合には、その収益的インパクトはさらに強まる。
そのため、ポップ系のトップアーティストの新譜が生産を圧迫し、以前からレコードに対する忠誠を貫いてきた比較的マイナーなアーティストやレーベルが締め出されるようになったと見る向きもある。
カリフォルニア州カマリロに中規模の工場を構え、多くのインディーズ・レーベルと取引するレコード・テクノロジー・インコーポレイテッドのリック・ハシモトは、「何より心配なのは、すべての生産能力がメジャーなレーベルによって独占されてしまうことだ」と語る。
その一方で、メジャーレーベルは単に便利な批判対象になっているだけだという意見もある。本当の問題は、スターたちがレコードブームに飛び乗っている点ではなく、需要の増加に応じて十分に生産能力を拡大できない業界のあり方にこそある、という見方だ。