空前の「レコードブーム」に喜ぶ人、焦る人の実態 テイラー・スウィフトやアデルも苦しむ物不足
とはいえ、レコードやCDはファンの忠誠心を示す強力な指標となっており、テイラー・スウィフトやオリヴィア・ロドリゴといったスターもレコードをマーケティングの重要な要素と位置づけている。
しかし、気がかりな兆候もある。レコード人気がにわかに盛り上がったため、その人気を支える生産が追いつかなくなっているのだ。生産は何十年も前の大きくて古いプレス機に依存しており、業界幹部らによれば「かつてない遅れ」が生じている。レコードの発注から納品までの期間(リードタイム)は数年前なら数カ月ですんでいたが、今では1年かかる場合もあり、アーティストのリリース計画に大きな混乱が生じている。
カンザスシティ出身のシンガーソングライター、ケヴィン・モービーは、最新LP「ア・ナイト・アット・ザ・リトル・ロサンゼルス(A Night at the Little Los Angeles)」の販売がもう少しで秋のツアーに間に合わなくなるところだった。それでも彼はまだラッキーなほうだ。最近ではビーチ・ボーイズやタイラー・ザ・クリエイターなど、さまざまなアーティストのレコードが発売延期になっている。
リードタイムはなんと25週間
やきもきさせられている人はほかにもいる。インディーロック通が好むシカゴのレーベル「スリル・ジョッキー」は来年、創業30周年を記念した復刻版シリーズを出す考えだが、創業者ベティーナ・リチャーズは、いったいどのタイトルの生産が間に合うのか見当もつかないと話す。
大物スターでさえ、この問題からは逃れられない。11月19日にニュー・アルバム「30」の発売を予定し、LPの大ヒットも確実視されるアデルは、BBCラジオの最近のインタビューで、レコードやCDの生産が間に合うよう、6カ月も前にリリース日を決めたと語った。
「リードタイムがなんと25週間! コロナ禍になる前から、CDやレコードの工場がばんばん閉鎖されていっていたから。誰もレコードなんか作らないよ、って」
音楽業界や製造業の専門家は、レコードの生産遅れについてさまざまな要因を挙げる。パンデミックの影響で多くの工場が一時閉鎖され、世界的なサプライチェーン問題によって、段ボールからレコード(あるいは配管パイプ)の原料となるポリ塩化ビニルに至るまであらゆるモノの供給が遅延し、レコードの生産が滞った。2020年初頭には、レコード生産に欠かせないラッカーディスク(原盤)を製造する、世界に2つしかない工場の1つが火災で焼失した。