「がんと告げられたら」心を守るために大切な事 泣く、怒る…負の感情にも大事な役割がある

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「大腸がんが肝臓にも広がっています。がんの進行度としてはステージIVになります」

担当の医師はそう話した後、「肝臓への広がり具合ですと、手術でがんをすべて取り除くことはできません。しかし、幸いにもこのがんには抗がん剤が有効です。薬物治療を続けながら、がんと付き合っていくことが目標になるでしょう」と続けました。

藤原さんは、告知された当時のことを思い出して、次のように話してくれました。

「まさに奈落の底に落ちたような気持ちでした。あのとき頭に真っ先に浮かんだのは、家族の顔でした。『専業主婦の妻と小学生の2人の子どもの人生は、どうなるのだろうか』と。あとは仕事のことでした。『仕事ができなくなったらどうするのか』、『職場の人間にこのことをどう伝えたらいいのか』と、そんなことを漠然と考えていたように思います」

治る見込みがあるかどうかで変わる

「あなたの病気はがんです」

そう告げられれば、誰もが大きな衝撃を受けるでしょう。「頭が真っ白になった」という声もよく聞きます。

しかし、一口にがんと言っても、ほぼ治ることが見込めるがんから、余命がそう長くないと予測されるものまでさまざまです。多くの場合、がんと告げられた後に患者さんが考えるのは、「自分のがんが根治を目指せるか」ということではないでしょうか。

「あなたのがんは早期で、90%治ります」と言われれば、多くの人はひとまずホッとします。もちろん、それですべて安心というわけではないので、10%のほうに入ったらどうしようとか、不安に駆られる方もいらっしゃいます。実際、多くのがんでは診断から5年が節目で、それまでの間は再発への懸念を抱えながら生活をしていくことになります。

さらに、「あなたのがんは進行がんです」と告げられれば、その衝撃は早期がんとは比べものにならないほど大きくなります。ただそれでも、根治する可能性が残されている場合と、根治が望めない場合では、受け取り方が大きく異なります。

進行がんの患者さんと日々、向き合っていると、「根治できる見込みは20%です」と言われた場合でも、厳しい道のりにため息をつく一方で、「自分はその20%に入ろう」と、前向きな目標を持って治療に臨む人は少なくありません。

対して、「あなたのがんは根治が望めません。治療の目標は上手にがんと付き合っていくことになります」と言われた場合は、これから一生病気と付き合っていくという現実が、目の前に突きつけられます。

それまで病気と無縁な生活を送っていた人にとっては、将来の見通しが根底から崩れます。今までほとんど考えなかった「死」が突如として姿を現し、不安や恐れ、怒り、悲しみなどの負の感情が怒涛のようにやってきます。

しかし、ショックの大きさに呆然としても、治療や仕事などの“現実”は待ってはくれません。気持ちが追いつかなくても、動き出さなければならないのです。

では、そんなときはどうすればいいのでしょう。

多くの患者さんやそのご家族とお会いしてきた私の経験からすると、進行しているがんと告知されたとき、予期せぬ厳しい現実を目の前にして、途方に暮れる方は少なくありません。大きな悲しみや恐れから、子どものように泣きじゃくる患者さんもいらっしゃいます。

私は、そうした不安や悲しみ、苦しみ、つらさといった負の感情を持つことや、泣き出す、怒り出すといった感情を表出することは、決してその人の弱さではないと思っています。

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