「がんと告げられたら」心を守るために大切な事 泣く、怒る…負の感情にも大事な役割がある

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負の感情は心の傷を癒やす力がありますし、むしろ喪失感と向き合った先にこそ、次の目標や課題が生まれると考えています。ですので、負の感情を抑え込んで、弱みを見せてはいけないと気丈に振る舞う方のほうが心配になります。

今まさに進行がんと向き合っておられる方々に申し上げたいのは、1人で歯を食いしばってがんばらないでください、ということです。周囲を信じて頼れる人は、しなやかに物事と向き合っていかれます。弱音も吐かず、平気な顔をしているのは結構大変なことで、どこかでボキッと心が折れてしまうかもしれません。

最初は気持ちが追いつかないかもしれませんが、不安や悲しみ、怒りなどの感情を押し込めずに誰かに話すことができたら、気持ちが少しラクになります。

もし家族に心配をかけたくない、周りに話せる人がいないといったときは、どうぞ医療者を頼ってください。がんと向き合っている患者さんやそのご家族の力になれることが、私たち、がんを診る医療者の喜びです。気持ちがコントロールできずに八方ふさがりになったときは、どうしたらよいかいっしょに悩んで、考えていきたいと思っています。

周りの人のひと言に心を救われる

冒頭の藤原さんは、幸いにも抗がん剤の効果でがんが小さくなり、体調も良いとのことで仕事を続けながら治療を続けています。

残業は行わず、抗がん剤治療を受けた後の1週間は、そのときの体調によって休むこともあります。自分が所属するチームの状況は決して楽観視できるものではないので、最初は、以前のように働けないことについて、周囲にとても申し訳なく思っていました。

そんなときに救われたのが、上司の言葉でした。「今日も体調が悪いので休ませてください。みんなが大変な時期に、本当に申し訳ありません」と電話で伝えたときのことです。

上司から、「実は私の兄もがんでね、がんの治療と仕事を両立する苦労は並大抵ではないことはわかっているよ。だから、つらいときは遠慮せずに休んでくれ。誰だってがんになるかもしれないんだ。病気をした人が肩身の狭い思いをする雰囲気をなくすことはみんなのためなんだから、君も協力してくれ」と言われたそうです。

藤原さんはその言葉を聞いて感謝の気持ちでいっぱいになり、思わず涙があふれたそうです。

もし、身近な大切な人が進行がんを患っているのであれば、まずはその方が大変な状況にあることを想像してほしいと思います。具体的に手伝えることがもしなかったとしても、自分のことを周囲が理解してくれている、応援してくれているということは、患者さんの大きな安心につながっているはずです。

清水 研 精神科医、医学博士

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しみず けん / Ken Shimizu

がん研有明病院腫瘍精神科部長、精神科医、医学博士

1971年生まれ。金沢大学卒業後、内科研修、一般精神科研修を経て、2003年より国立がんセンター東病院精神腫瘍科レジデント。以降一貫してがん医療に携わり、対話した患者・家族は4000人を超える。2020年より現職。日本総合病院精神医学会専門医・指導医。日本精神神経学会専門医・指導医。著書に「もしも一年後、この世にいないとしたら(文響社)」、「がんで不安なあなたに読んでほしい(ビジネス社)」など。

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