広瀬道貞・日本民間放送連盟会長--テレビ広告が不要になることはない、テレビの存在価値は高まる
■中身は変わってもテレビ広告は残る
--米国ではアイパッドのアプリでテレビ番組を無料で見られますが、日本では始まっていません。
メディアはインフラを考えないといけない。米国の新聞社はあれだけバタバタ潰れているのに、日本の新聞社は一つも潰れていない。それは宅配という家庭になじんだ制度があるから。テレビも放送法によって、せっせと中継局を作って、各家庭で何台テレビを使っても値段はゼロというインフラを作った。
米国のようにケーブルに任せると100チャンネルでも200チャンネルでも入るから、ネットワーク局の重みが下がる。自分たちで4大ネットワークと言っているが、プライムタイム(19~23時)の視聴率は5~6%にすぎないため、ネットに進出しなければ埋没してしまうという危機感がある。日本はそれがないし、もっと競争相手が出てきてもいいぐらい。ネットに進出しないと経営が立ち行かないわけではない。ネットで本格展開するときには、きちんと準備をし、それなりに人を割く覚悟がいる。テレビで流したものをアイパッドで流せばいいという話ではない。
--日本のテレビはこれからも最大のマスメディアとしての存在感を維持できるでしょうか。
放送はインフラを確保するかぎり、広告収入でやっていける。他の産業と比べて新規投資がほとんどなく、必要なのは減価償却に見合う分の更新投資ぐらい。今回はデジタル化投資があったが、それも5年、10年置きにあるわけではない。
自動車や電機の状況を考えると、日本経済は決して明るいことだけではないが、暮らしが変化して、教育だとか介護だとか多様なサービスが必要になる。広告の中身が変わってくることはあっても、テレビ広告が不要になることはない。アイパッドなどもテレビの端末として考えるなら、テレビの存在価値は高まる。テレビはこれからも大きな役割を果たしていけるのではないかと思う。
ひろせ・みちさだ
1958年朝日新聞社入社。97年同社専務。99年テレビ朝日社長、2005年同社会長(現顧問)。06年から民放連会長。
(『週刊東洋経済』2010年7月3日号[6月28日発売] 特集「新しい支配者は誰か? メディア覇権戦争」より)
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