日本に「オードリー・タン」が誕生しない納得の訳 「天才」がムダになる環境になっていないか
台湾の仕組みと日本の仕組みを比較すると、3つの疑問が出てきます。(1)どのようにタン氏のような天才ができたのか、(2)なぜ台湾は早い段階からデジタル担当大臣を設けられたのか、(3)「逆メンター制度」はなぜ導入されたのか、です。
まず1つ目です。天才育成について、決まった方法はありません。イギリス人のホーキング博士は、極めて思想が自由な、愛あふれる家庭に生まれました。しかし、そうではない天才もたくさんいます。残念ながら「いじめ」が関係してくる場合もあります。体が小さく、「お猿さんの顔」と言われたホーキング博士は、学校でいじめられました。しかし、「いじめられっ子だから天才になれた」というわけでもありません。
どのようにしたら天才を作ることができるかは誰にもわからない現在、政策的に天才を育成しようとしても無理でしょう。幸い、日本は天才に関して心配はいらないと思います。なぜなら、十分に天才がいるからです。ただし、その能力を使っていないことが問題なのです。
デジタル化で大きく後れをとる日本
2つ目のデジタル担当大臣について考えましょう。日本は2000年の森喜朗政権から「電子政府」を唱えています。成果が全くなかったわけではありません。OECDの電子政府を評価するためにできたOUR指数(Open, Useful, Reusable)において、2019年の結果で日本はほぼトップです。一方で、実際に電子政府が利用されているかどうかは別問題です。
そうした中で、諸外国は加速度的に進化しています。2014年末に、エストニア、イスラエル、ニュージーランド、韓国、イギリスはD5(デジタル5か国)を作り、アメリカもフランスもオブザーバーとして参加しました。その後、カナダ、ウルグアイ、メキシコ、ポルトガル、デンマークが加盟しました。このグループは年に2回集まり、デジタルの進捗について話しあい、アイデアを交換します。
一方、D5の資料を検索しても、日本に関する言及はありません。ようやく2020年9月、菅義偉政権になってデジタル改革担当大臣を任命、2021年9月からデジタル庁を創立することになりました。待ったなしの状況です。
IMD(スイスの国際経営開発研究所)はデジタル競争力ランキングを出していますが、日本は2016年の23位から2020年には27位に落ちてしまいました。すなわち、電子化の政策的な優先順位は他国に比べて低いと言えるでしょう。
3つ目は、逆メンター制度についてです。ここでジャック・ウェルチ会長の出番です。1999年、ウェルチ会長は、GE傘下の消費者金融事業の社長と会っていました。その社長は、ウェルチ会長に「私はメンティーです」と言うのです(メンティーとは、アドバイスを受ける人)。