過激派「イスラム国」の迫害行為を直視せよ 米国が空爆で救おうとしている人々とは?

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そのルーツは少なくとも後期青銅器時代にまでさかのぼり、信仰はヒンドゥー教との共通点が多い。たとえば、輪廻転生を信じ、日出・日没時の太陽に向かって祈りを唱え、カースト制度もある。

ヤジーディの起源ははっきりしないが、文化的・遺伝学的証拠が示唆するのは、紀元前第2千年紀に西に向かって移動したインド人集団との関連だ。古代ペルシャの宗教であるゾロアスター教は、ヤジーディの信仰とつながりがあり、初期ヒンドゥー教とも密接な関連がある。

何世紀もの間、キリスト教徒もイスラム教徒も、ヤジーディを「悪魔信仰」だとして、情け容赦なく迫害した。特にひどかったのは、オスマントルコの支配下にあった18世紀と19世紀だ。度重なる大虐殺で何十万人ものヤジーディが殺害され、ほぼ全滅に至った。

ヤジーディの避難場所はできるか?

ヤジーディ文化はアラブ化圧力にさらされ続けた。フセイン政権崩壊後、事態は悪化した。2007年4月には、銃を持った男たちがヤジーディの男性23名をバスから引きずり降ろし、撃ち殺す事件が起こった。その4カ月後には、組織的な自動車爆弾攻撃で、女性や子どもを含む少なくとも300人が殺害された。

「イスラム国」は、モースルのキリスト教徒には、改宗するか、「ジズヤ」(イスラム法に基づき非イスラム教徒に課される特別税)を払うか、退去するかを選ばせた。だがヤジーディは「悪魔信仰」と決め付け、見つけ次第殺害する。

モースル近くにあるヤジーディの本拠地は、ほぼ「イスラム国」の支配下に置かれている。報道では大規模な虐殺が行われ、多くの避難民が山岳地帯に逃げ込み、数百人が水と食料の不足で死んだとされている。ヤジーディにとって最も神聖な巡礼地、ラリッシュは、破壊のリスクにさらされている。

米軍がクルド人勢力による軍事行動を支援することで、生存者は救出されるだろう。しかし、ヤジーディが近いうちに故郷に戻れる見込みはなさそうだ。

何世紀も昔、生き残りのゾロアスター教徒がペルシャ(イラン)での迫害を逃れインドにやってきた。その子孫は「パールシー」という小コミュニティを形成し、今もインドで暮らしている。ヤジーディに避難所を提供するのは誰だろうか。

週刊東洋経済2014年8月30日号

サンジーブ・サンヤル エコノミスト

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Sanjeev Sanyal

『The Indian Renaissance』『Land of the Seven Rivers』の著者。世界経済フォーラムがヤング・グローバル・リーダーに選出(2010年度)。

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