尖閣諸島領有紛争で中国が望んでいること 具合がいいのは、「棚上げ」への回帰

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リチャード・カッツ

最近、筆者が北京に行った際に、かなりの数の安全保障専門家たちに質問した──尖閣諸島(中国名:釣魚島)をめぐる緊張を緩和させるか、解消するために何を望むかと。そのうち数名が、中国が呼ぶ「新しい現状」に言及した。

中国は、尖閣諸島の領有をめぐって法的争いがある、と日本が認めることを望んでいる。認めれば、中国は周恩来と田中角栄が採用した「棚上げ」の立場に戻ることができるからだ。この話をした安全保障専門家たちの全員が、「棚上げ」の立場に戻ることは「新しい現状」の枠組みにおいてのみ可能だとした。

日本が尖閣諸島を国有化することで「新しい現状」を変化させたので、中国は接続水域と領海に船舶を送り込んだ。だから棚上げは、「新しい現状」を維持することを意味する。中国は船舶を送り込む頻度を下げても、まったくやめることはない。日本が国有化を撤回しないので、中国も国有化以前の状態に戻ることはできない。中国の安全保障専門家たち全員が、この点で意見を一致させた。

私は、そんな合意に向かおうとする、あるいは合意が可能な日本の政権はないだろう、と語った。中国は、日本から何らかの譲歩を引き出すためのインセンティブを何も提示していない。

日本が現状を維持するとすれば、中国はいったいどうするつもりなのか。中国は現状レベルの緊張がいつまでも続くと見ているのか。圧力を強めれば、最終的に日本は折れざるをえないと期待して、衝突を強める気なのか。この点では見解に相違があった。中国政府には透明性がないため、回答困難だとする人もいた。

中国政府は武力衝突を望まないが、この海域で船舶が意図せず衝突する危険を認識しているとの見方で専門家たちは一致した。衝突を防ぐため、水面下で協議が進行中だとする人もいた。

中国国外の大学院に通っていた大学教授は、日本国内のみならず国際的にも安倍晋三首相を孤立させ、もっと従順にさせようとした中国政府の計画は失敗した、と述べた。

同教授によれば、野田佳彦前首相が尖閣諸島を国有化して以来、最初の閣僚級会合開催を働きかけたのは中国だった。5月17日、中国で開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)貿易相会合に際し、中国の高虎城・商務部長と日本の茂木敏充・経済産業相が会談した。

11月に北京で開催されるAPEC首脳会合で習近平主席が安倍首相と会談するメリットについても指導部内で話し合いがあったという。問題は、習主席が首脳会談開催に合意する場合、安倍首相にどんな譲歩をさせる必要があるかだ。

2点が挙がった。(1)靖国神社に二度と行かないと約束する、(2)尖閣諸島をめぐる争いの存在に言及する。私は、日本ができる最大限の譲歩は以下だろう、と述べた。「日本は法的な争いがないと主張するが、中国は違う考えだと認識しており、これに耳を傾ける用意がある」。中国政府がこの表現を十分と見なすかどうかは、専門家の誰にもわからなかった。

中国政府自身によって過去20年培われてきた草の根のナショナリズム感情に縛られている中国首脳が、日中関係でどの程度の自由裁量を持っているかについて、見解の一致は見られなかった。

オバマ政権は従来、靖国や慰安婦の問題で安倍首相をあれほど批判してきたのに、なぜ大統領が4月に訪日した際、尖閣諸島から集団的自衛権に至るまで安倍首相にあんなにすり寄ったのかと問う人がいた。尖閣諸島や南シナ海での中国の行動への反応が一因だと私が答えると、心から驚いた様子だった。中国自身の行動が他諸国をどれほど遠ざけているか考えたことが、本当になかったようだった。

この人物が、米国による中国「封じ込め」を安倍首相が代行しているとの見方でこの問題を取り上げなかったことは興味深い。あれほど中国のメディアが主張しているのに、だ。

週刊東洋経済2014年8月2日号

リチャード・カッツ 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Richard Katz

カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。著書に『The Contest for Japan's Economic Future: Entrepreneurs vs. Corporate Giants 』(日本語翻訳版発売予定)

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