ニナ・ムンク氏の間違いだらけの著書について、ビル・ゲイツ氏は自身の財団が行う意義深い活動の本質である、測定と評価に対する厳格な姿勢をなぜか放棄している。「ミレニアム・ビレッジ・プロジェクト」が失敗に終わったとするムンク氏の主張を、彼はあっさり信じているのだ。だが、同プロジェクトは実際には成功している。
ムンク氏の著書でカバーされているのは、10年にわたるプロジェクトの前半の、しかもほんの一部であり、12ある村のうちの2つしか見ていない。さらに、彼女は一度もビレッジに長期滞在していない。各村を実際に訪れたのは、平均して年間でおよそ6日であり、一度の滞在期間は通常2~3日だ。公衆衛生、農業、経済、アフリカ開発、そのいずれについても、当時の彼女は何ら研修を受けておらず、経験も持っていなかった。
それだけではない。ムンク氏の観察は多くの場合、大きく誇張されている。需要の有無を考えずに私が特定の作物への転作を推奨したと、ゲイツ氏は本当に思っているのだろうか。あるいは、私が政府指導者らに対して行っている助言において、国税の検討を怠ったと思っているのだろうか。さらに、プロジェクトにおける農業政策や決定は、アフリカ有数の農学者らの主導で行われてきた。
ゲイツ氏には安心していただきたい。プロジェクトは来年、正式に専門家によって評価を受ける予定だ。この評価は、過去10年にわたって収集された膨大なデータや2015年に実施予定の新しい大規模調査のデータに基づいて行われる。
プロジェクトが毎月集めている、地域の医療提供や疾病率、死亡率に関する詳細データによれば、いい知らせはほかにもある。各ミレニアム・ビレッジにおける死亡率が大幅に減少しているのだ。現在のデータが示唆するところによれば、5歳未満児死亡率を出生1000人当たり30人未満に削減するという大胆な目標が、すでに達成されているか、達成可能なところに来ている。しかも、医療システムのコストは非常に低い。
この機会に、以前ゲイツ氏に対して持ちかけた提案を今一度持ちかけたい。アフリカ農村部の好きなところをどこでも1カ所選んでくれれば、われわれのチームが現地のコミュニティと協力して、ミレニアム・ビレッジの医療アプローチにより、5歳未満児死亡率を3%未満にしてみせよう。これは、中所得国で一般的とされる数値だ。しかも、1人当たり年間たった60ドルの医療分野コストで、5年以内にこれを実現できる。その成功を目の当たりにすれば、ゲイツ氏も、プロジェクトの設計原則に基づく低コスト地方医療システムに投資することの価値を認識するだろう。
プロジェクトの持続可能性と拡張可能性に関する懸念がある一方、アフリカの各政府はわれわれのアプローチを強く支持している。彼らは、自らのお金や政策をもって、プロジェクトがより広範に実施されることを後押ししている。
たとえば、ナイジェリアは同国の774の全地方行政区において、医療および教育サービスを全国規模で提供するために、本プロジェクトの概念を用いている。各地域政府は、イスラム開発銀行から1億ドル以上の融資を受け、プロジェクトの概念を自発的に発展させている。また、ほかの12カ国前後が、独自のミレニアム・ビレッジを立ち上げているか、あるいは、プロジェクトに触れて、立ち上げの協力を依頼してきている。
ミレニアム・ビレッジのアプローチがアフリカ中に広まっている事実から、われわれの手法や戦略、システムが非常に有用であるとアフリカの政治指導者たちが考えていることがわかる。ゲイツ氏には、近日中に予定されているアフリカ訪問中にビレッジを1カ所以上訪れ、われわれのアプローチがこの大陸全土でなぜこれほど高い関心を得ているのか、自分の目で見て理解してほしい。
(週刊東洋経済2014年6月14日号<9日発売>「グローバルアイ」より)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら