「失敗」を「早期フィードバック」と捉え直すべき訳 ナラティブに未来を紡ぎ出す創造的失敗の知恵

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しかし、これに対してオランダ・ハーグの地方裁判所からCO2削減目標が不十分という判決を受けてしまった。2050年では遅い、もっと早く、というのである。

現在、シェルは対抗策を練っているというが、この裁判の原告は、国際的環境NGOとオランダ市民などである。これまでも石油メジャーは環境団体からの圧力を受けてきたが、今回はその想定の幅を超えた。

これと「逆」のような例も見られる。「良い企業」として世界初でBコープ認証を受けた仏食品大手ダノン。会長兼CEOのエマニュエル・ファベール氏は、就任以来「人と自然重視の資本主義」を唱え、ESG経営を推進してきたことで知られていた。

しかし、今年の3月に解任されてしまう。それは株価の動向が冴えずに下落したためだ。そこに異議を唱えた少数株主の新興ファンドからの反対に他の株主が賛同した。

以前、某多国籍コングロマリットのCEOの話を聞く機会があり、あなたが夜眠れなくなるような変化要因は何か、という質問が出た。答えは「地球規模の政治変動」だった。

賢い判断を生み出す失敗の知恵

複雑系の世界では、いわば四方八方から予測不能なイベントが起きる。従来の良識は、もはや有効でない。どこか特定の方向だけ打ち出しても、「その方向ではない」「それでは不十分」というプレッシャーがかかる。「前門の虎、後門の狼」だ。しかし、経営者は優柔不断であってはならず、変化に際しては機敏な方向転換が求められる。

今日ほど「創造的な失敗の知恵」が求められる時代はない。そして、その肝ともいえるのが「賢慮」すなわち実践的知恵である。

アリストテレスによれば、「実践的知恵」とは私たちが幸福に生きていくうえで不可欠な、特定の状況での判断力だ。たとえば、新規ビジネスを立ち上げるときには、極度な無謀(大胆さ)あるいは臆病さ、あるいは小心も過信も禁物である。

失敗は、こうした両極のボーダーラインを越えたときや、どっちつかずのときに起きる。その間の絶妙なバランスが必要である。それは単なる「中間」ではない。状況によってそれは変わるものの、まさにその比率は黄金比にもたとえられる。

このポイントは自分や他者の経験からしか学べない。つまり、いたずらに失敗経験を重ねるのではなく、失敗についてよく知ることである。これは生きるための賢さ(知恵)につながることだろう。

紺野 登 多摩大学大学院教授

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こんの のぼる / Noboru Konno

1954年東京都生まれ。1978年早稲田大学理工学部建築学科卒業。博報堂勤務などを経て現職。博士(経営情報学)。慶應義塾大学大学院SDM研究科特別招聘教授、エコシスラボ株式会社代表、一般社団法人Future Center Alliance Japan代表理事、Japan Innovation NetworkのChairperson、日建設計顧問などを兼務。約30年前からデザインと経営の融合を研究、知識生態学の視点からリーダー教育、組織変革、研究所の場のデザインなどの実務にかかわる。主な著書に『ビジネスのためのデザイン思考』、野中郁次郎氏との共著に『知力経営』『知識創造の方法論』などがある。

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