「失敗」を「早期フィードバック」と捉え直すべき訳 ナラティブに未来を紡ぎ出す創造的失敗の知恵

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しかし、バックキャストの起点となるビジョンや目標が、たった1つであることはないだろうか。だとすれば、それは大きなリスクでしかない。

そこでは長期的な思考と同時に、アジャイルな実践を行う必要がある。大きな目的は変わらないが、そこへの道筋は多様だ。そこで複数の対極的な世界を描くシナリオ・プランニングのアプローチは、機敏な方向転換(ピボッティング)に欠かせない。

そこにはセレンディピティのような偶然性も含まれる。セレンディピティは、私たちが何かを真摯に求めて努力し、にもかかわらず「失敗」し、一見「誤った道」に入ることで思いがけない宝物に出会う旅である。それは単なる確率的偶然ではないのだ。

(出所)紺野登『イノベーション全書』265ページ

ともに真逆の想定外に見舞われたシェルとダノン

もちろん、シナリオだけではすべてを解決することはできない。たとえば、石油メジャーのロイヤル・ダッチ・シェルは、1970年代初めからシナリオ・プランニングを用いて複雑な世界で優位性を構築してきた。

一般のイメージとは異なり、シナリオ・プランニングとは予測ではない。何かを言い当てたりすることではない。未来は予測できない、世界は多様な可能性だと考える。しかし、シェルは、これまではかなり上手にこの手法を用いてきた。

同社の最新シナリオ「エネルギー転換シナリオ」では、2100年までの気温上昇を産業革命前に対して、「2.5度(Waves)」「2.3度(Islands)」「1.5度(Sky)」という3つのケースで設定している。

背後には、重要かつ不確実な要因、たとえば再生エネルギー、CO2、環境技術革新、国際政治その他が想定され、これらの組み合わせで多様なシナリオが生まれる。シェルの経営陣がコミットしたのは「1.5度」シナリオで、パリ協定の目標と合致、CO2排出実質ゼロ目標も同じ2050年として公約していた。

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