「悪質クレームをしてしまった人」が語った本音 千人調査で回答者の約半数が「やった経験あり」
インターネットの普及が進んだ2000年前後から、悪質クレームがたびたび問題になってきた。近年では、顧客による嫌がらせということで、「カスタマーハラスメント(カスハラ)」という言葉も使われている。
だが、悪質クレーム問題に詳しい東洋大学の桐生正幸教授(犯罪心理学)によると、日本では悪質クレームについて、心理学の観点から扱った研究はまだ少数だという。言い換えれば、日本のカスハラ対策はまだ始まったばかりということだ。
カスハラをする人たちはいったいどんな人たちなのか、どういう対策を取りうるのか。桐生教授に聞いた。
「客をクレーマー扱い」は避けたい企業
日本でカスハラ研究が進まなかった理由のひとつには、客のことを直接的には悪く言いたがらない企業風土があるのだという。
「企業側からは、客のことを『クレーマー』と呼ぶのは避けたいという話をよく聞きます。クレーマー扱いすると、客をよそにとられてしまう。だったら企業側に非がなくても謝ったほうがいいという判断になる。要するに他社の様子うかがいばかりして、対策が進んで来なかったんです」(桐生教授)
長引くデフレ不況の中、「おもてなし」は価格以外で差別化を図る要素でもあった。企業にとって悪質クレームは分析・対策するものではなく、やむなしと甘受するものだったのかもしれない。仮に現場の労働者が疲弊しても、募集すれば採用できる時代も長く続いた。
しかし、そうした企業の「甘やかし」が重なり、消費者の問題行動が社会問題化した。2000年前後から「悪質クレーム」や「モンスタークレーマー」といった表現はあったが、近年は「カスハラ」がよく使われている。「また●●ハラかよ」と感じる人も多いだろうが、トレンドの背景には微妙な人間心理も影響しているようだ。
「『クレーム』や『クレーマー』だと、客や不満内容そのものを指してしまう。そこには正当なものも含まれています。でも、『カスハラ』は客の問題行為に着目し、被害を受けているイメージも浮かぶ。この表現なら企業や労働者側も問題化しやすいという面があるのだと思います」
モンスタークレーマーなどはメディアなど社会の側から出てきた言葉だが、カスハラは企業や労働者など、実際に問題客と接する側から出てきた言葉というふうに言い換えられるのかもしれない。