日本一過酷な山岳縦走「会社員」参戦が実は多い訳 約415kmをほぼ無支援で8日以内に走破する

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片野さんがTJARに感じる面白さは「うまくいかないところ」だという。

TJAR2018に挑む片野さん(写真:金子雄爾)

「僕の場合、レースも山行も、失敗をしに行く、みたいな面がある。山行計画を立てて実行して、その結果を踏まえて次はこうしよう、と考えるのが楽しい。

例えば、家にいたらエアコンで室温を調節できるけど、山にいたら、ほかの人と同じ服を着ても、暑さや寒さの体感は違う。自然の中では、思いもよらない事態に遭遇することもある。トライ&エラーの繰り返し。ザックなど装備をいろいろ試すのも好きですね。計画して実行して、精査して次に活かすのは仕事にも通じる。そういうところに面白さを感じます」

家族は妻と娘3人。娘たちは中学生になり手がかかる時期ではないが、家を空けることが多いのは、やはり気が引けるという。そんな夫について妻の早紀さんは「登山で家にいないことが多いから迷惑な面もある。でも尊敬しているし、かっこいいと思う。半々ですね」と話す。

2018年大会は「自分の冷静なところが出て、(力を)出し切れなかったという悔いが残った」と片野さん。今夏は「前回と違うワクワク感を持って挑んだ」という。「1回完走したからこそ、経験を活かして、どのくらい短縮できるか見えていた。仕事の状況が来年、再来年とどうなるかわからない。出るなら、40歳の今がチャンスかなと」。

前記のようにTJAR2020は2日目に中止になり、不完全燃焼に終わったが、TJARは「つらさも含めて楽しい」と片野さんは言う。

「つらいことは覚悟の上。楽しさとつらさ、両方あるのがTJAR。大会中は、ほかのハイカーさんや小屋の方が声をかけてくれるのもうれしい。僕にとっては楽しいほうが大きいです」

日本にいて実現できる「最大の挑戦」

過去に5回選手として出場し4回完走している実行委員会代表の飯島浩さんは、選手がTJARに挑む理由について次のように話す。

「本質的には、ほかのマラソンやトレイルランのレースと何も変わらないと思います。ただ、TJARはあまりに長時間、壮大なレース。思い立って『出たい』と思って出られるものではないし、ただお金を出せば参加できるレースでもない。体力面はもちろん、参加要件など、こちら(主催側)が課している条件を満たすためには、相当の努力が必要。目指すとなれば、数年前から準備しないと出場は叶わない。

目指す人たちにとっては、日々の忙しい中で、目標を持ち続けることは、日々の生活の中で張り合いになると思う。お金も時間もかかるが、国内のレースだから、海外レースに比べると少しハードルが低いのかな。日本にいて実現できる、最大の挑戦という意味合いは強いと思います」

国内で実現可能な、最大かつ壮大な挑戦であるTJAR。次回は、来年2022年に開催される予定だ。

松田 珠子 ライター

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まつだ たまこ / Tamako Matsuda

静岡県出身。大学卒業後、スポーツ関連財団勤務、スポーツコミュニケーションズ勤務を経てフリーランスに。スポーツ、山、子育て(教育)などの分野で取材・執筆。著書に『山岳王 望月将悟』(山と渓谷社)。現在は石川県金沢市在住。小学生双子男児の母。

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