部活で起きる「男子への性的暴行」知られざる問題 男性が性被害を言い出しづらい5つの理由

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1つめは、圧倒的な主従関係を背景にした、指導者による支配力が部員を黙らせていることだ。冒頭に伝えた大阪の私立高校での事件でも、メンバーを決めていた被告に「逆らえばレギュラーを外されるかもしれない」と部員が吐露している。甲子園を目指すような学校では、野球で生きていこうと決めプロ入りを目指す球児は多い。

「不祥事が公になれば、活動停止、大会への出場停止といった処分が下される。このような性虐待はほかにもあるのではないか。決定権をもつ人から「嫌だ」と感じることをされたとしても、なかなか言い出せないもの。レギュラーに選ばれないとか、大学への推薦をもらえない、さらには指導をしてもらえなくなるといったパワハラを受ける可能性がある。このような理不尽な力関係こそが、セクハラという問題の本質だ」(高峰教授)

社会の偏見にさらされる被害者

2つめは、男らしさの刷り込みだ。「ニッポン男児」と呼ばれるように男は強くあらねばならないと抑圧される文化が、被害を訴えるハードルを上げる。

「暴力根絶宣言がされてから8年になるが、部活での暴力がいまだに散見される。その背景には、男子が体罰を受けても歯を食いしばって頑張るというようなことを『男らしさ』として、それを受け入れる風潮があるのではないか」と高峰教授。

そのため、性被害を受けた男子を、男らしくない、弱々しい存在に捉える社会の偏見はなくならない。被害男子は「こんなことをされたダメな俺」と人格を破壊されかねず、女子以上に周囲に訴えるハードルが高くなる。性被害に遭った女子は、例えば「隙があったのでは」「同意では」といったスティグマ(偏見)がつきまとうが、男子の性被害に対しては「女子に対するものとは異なるスティグマが、日本の社会には根強い」と同教授は見る。

「東京オリパラで、セクシャルマイノリティーの選手が積極的に発言する機運が高まり、同性愛の人たちへの理解や認知が進んだ。そのようないい流れを止めてしまってはいけない。大阪の野球部コーチの一件で、ゲイ男性は危険というようなレッテル張りにならないか心配している」

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