危機管理には結局「優秀なリーダー」が不可欠な訳 指揮統制の機能不全と「意思疎通のプロ」の不在

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他方、感染症の場合はより複雑である。ウイルスを人類共通の敵と見なすことが可能かと思いきや、新型コロナのような世界同時多発的危機に際しては、国際協調がスムーズにいくとは限らない。2021年春、韓国がアメリカに対して、ワクチンスワップを提案してアメリカに拒否された事例、またインドが国内の感染爆発を受け、アフリカや周辺諸国へのワクチン輸出を停止した事例はその好例を言えるだろう。相手が憎くて協力を拒むのではなく、皆が自国の対応で精一杯で、協力の余地が狭まるがゆえに、協力しにくくなる。

このような特徴を踏まえれば、感染症の危機管理に際しては、戦争にはない狡猾さが求められるし、また、共通の敵と効率よく闘うための、国際的な危機管理システムの整備も必要となるだろう。

複数の専門家から出される知見をどう調整するか

このほか、感染症危機管理は戦争に比べると、関与するアクターが多くなり、指揮系統が一層複雑化する可能性もある。すなわち感染症危機管理においては、公衆衛生や経済、国際関係、法律など複数分野の専門家の知見が必要とされ、彼/彼女らの共同作業を行う場面も少なくない。その際に、複数の専門家から出される知見をどう調整するのかという問題に直面することになる。

殊に民主主義国では、専門家に限らず、さまざまな利益団体や国民の声を危機管理に反映させざるをえない。新型コロナ対応においても、例えば緊急事態宣言の発出の可否を巡って、あるいは解除の時期をめぐって、さらにはロックダウンの是非を巡って、多様なアクターの間で相異なる意見が出された。多様な意見をどうすり合わせていくか、この中で、どのように指揮系統を確立していくのかという、戦争にはない難しさが感染症の危機管理には付きまとうのではなかろうか。

本書を読んで考えさせられた第2のポイントは、本書で展開されている「〜すべき」論を、いかに日本で実行に移すか、という点だ。著者は今後の危機対応に求められる人材像として、医療に加え、政治経済など、複数の専門知を備えた人材の必要性を指摘する。一人の人間が複数の専門知を兼ね備えるためには、日本の教育システムにもメスを入れる必要が出てくる。

また、危機時の対処に当たっては「人事の常道や平時の年功序列制(Seniority system)を脇に置き、指揮官が個人的に信頼できる危機時の有能な部下を躊躇なく強引にでも引き抜き、個人的信頼関係に基づいた強固かつ有機的に団結したチームを編成し、事態対処行動を行わねばならない」(同書p.289)とも述べている。このためには日本の公務員制度にも、大胆な改革が求められることになる。

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