鬼滅の刃がTVアニメでもTVの枠にはまらない必然 もはやTV放送が作品を最も輝かせる恒星ではない

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『鬼滅の刃』はこの「テレビアニメ」の矛盾を突き破り、特定のテレビ局に依存するのではなく、2019年4月のテレビ放送に向けて全国21チャンネルでの同時配信に踏み切った。アニメの新しい流通戦略である。アニメ出資会社は、前述したようにアニプレックス、ユーフォーテーブル、集英社の3社のみで、広告代理店もテレビ局も入れていないため、どこかのテレビ局1社とその系列の地方ネットワークに制限されることもない。

その代わりに、各局3カ月1枠のスペース代とそこに流れるCM枠の費用を負担しなければならない(テレビ局や代理店が出資社に入っているとこの費用をそれらの会社が自社スペースということで負担・買い上げてくれるケースが多い)。

さらにはテレビ放送だけでなく、インターネット配信であるアベマTVからdTV、アマゾンプライム、フールーなどおよそ14の配信サイトにも流していった。テレビ局も配信サイトも自社だけに「限定」してくれるのであれば、お金を出して放送・配信権を「買いに来てくれる」が、どこにでも流れているアニメに対して、ほとんどそうした費用はつかなかったといってよいだろう。

アニプレックスは「放送・配信はお金を稼ぐところではなく、なるべく面を広くとってユーザーに認知してもらうためのもの」と割り切ったのである。

いつでも見られる「再放送」をフジが獲得した異例事態

1年間で大好評を博した後に、2020年10月にフジテレビが劇場版公開にあわせて放送を行うことになる。すでに大人気となっていた鬼滅の刃だけに、ここはフジテレビがお金を出して「フジテレビのみで放送する権利」を獲得する。

ただ異例なのは、アマゾンプライムにチャネルをまわせば、そこで『鬼滅の刃』は見られる状況下にありながら大手テレビ局がお金を出したということである。すでに1年以上前に放送されたものの「再放送」であり、なおかつ配信サイトにアーカイブがあるのでいつでも見られる。そんな作品にお金をかけて放送権を取りに行くなど以前のテレビ局であれば考えられなかったことだ。

だが幸いにも、テレビ放送は「ライブ」としての機能を果たした。このとき、このタイミングに皆が同時に視聴できるメディアというと確かにテレビしかなかった。もしアマゾンプライムやほかの配信サイトで同じ鬼滅のアニメを視聴しても、その「場所」「時間」でほかの全国の視聴者が同じものを見ているという息遣いは聞こえてこない。

フジテレビでの鬼滅の再放送である2020年10月10日(土)20時からの第1夜は、結果として世帯視聴率(総合視聴率)20%を超えることになる。これは「生放送‼ 半沢直樹の恩返し」(2020年9月6日、TBS)、「ゆく年くる年」(2020年12月31日、NHK総合)とほとんど変わらない高視聴率であった。

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