鬼滅の刃がTVアニメでもTVの枠にはまらない必然 もはやTV放送が作品を最も輝かせる恒星ではない

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日本のテレビで放映されるアニメ作品は、ほぼすべて「アニメ製作委員会」という共同出資によって作り上げられている。1本当たり2億〜3億円(30分枠の1話当たりでいうと1500万〜2500万)を、それぞれ数社から10社近くで出資している。ざっと年間300本のアニメが制作され、総額750億円ほどがアニメ委員会に出資されている。

出資によって期待される収益は、まずはアニメの映像・音声などが権利となって、それを使った派生ビジネスが展開されていくなかで「著作権料」としてアニメ委員会にロイヤルティー収入を戻してもらう権利収入である。これだけで約3000億円になり、この時点で制作費用の約4倍の収益になる、なかなかのビジネスである。

そのほか、アニメの映像・音楽を使ってグッズを作ったり、パチンコを開発したり、ゲームに転用したりといった派生ビジネスがあり、この全収入が年間約2.5兆円となる。初期制作費の20倍以上の規模になる。

ただもちろんこれらが制作費用750億円ポッキリでできるわけではなく、別途ゲーム開発に1本当たり5億〜20億円といった金額が投じられたり、ブルーレイの映像パッケージ作りに5000万円かけたり、と派生ビジネスごとの開発投資があって投資者が利益を得られる前提で進められ、その一部がアニメ委員会に戻されるという構造になっている。

ただし、実際は年間300作品の8〜9割が「損失」に終わる。「著作権」だけで期待収入は制作費の4倍といいながらも、数少ない人気作品が寡占している市場環境であるため、大半の新作は失敗するのだ。ほとんどのタイトルは人気が出なかったので派生ビジネスをやるリスクが大きくて何も動かさず、投資の回収には至らない、という結末になる。

一世を風靡したタイトルはもちろん委員会全体が潤うが、そのような大ヒットは数年に1回くらいしか出ない。大事なのは10本のうち9本が当たらなかったとしても、その後ビジネスを続け、継続的に出資とユーザーを集めていくかという産業としてのサステナビリティーである。9割の「損失」を癒やすのは、1割の「成功」以外にない。1本が10倍、20倍にもなって跳ね返ってくるおかげで、各社はその次も毎年10本に投資することを決断できるのである。

全国21局で同時配信し配信サイトにも提供

テレビアニメと言いながら、その人気の発火点はテレビ放送ではなく、もともとのマンガですでに数万人の購入ユーザーができあがっていたり、SNSや話題になった商品化、またはデジタルゲームによって人気が高騰するといった事例も散見される。「テレビ」が恒星のように最初に光を作り出す(その作品が好きなユーザーを何万人、何十万人と生み出す)のは、過去の話でしかない。いまや視聴者を増やす主役はテレビではなくなっている。

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