国内の「うつ」は17.3%コロナ禍で割合増の深刻

当事者や家族が直面する問題とはいったい何か

病院に行くと、すぐに仕事を休むよう診断書を渡された。そのときの心境を「正直ほっとした」と懐古する。

「ああ、もう休んでいいんだ、って。肩の荷が下りたような気持ちになりました。それまではどんなにつらくても、『ここで逃げ出すわけにはいかない。弱音を吐いたらだめだ』と自分自身を追い込んでいたんです。

振り返れば、手を差し伸べてくれる人は周りにたくさんいました。でも当時の私は、SOSを出すことに抵抗を感じていました。もっと早く助けを求められていたら、状況は変わっていたかもしれません」

休職することになった林さんだが、次第に別の感情に苦しむようになる。

「もう自分は社会に必要とされていないんじゃないかと感じ始めたんです。当時は20代後半から30代に差し掛かる頃。同期の多くは昇進していきました。どんどん置いていかれる感覚になりましたね。

思い描いていたレールから外れてしまったんだ。そう思っても、自分はもう前のように働けない身体になっていました。どうすることもできず、布団の中でただ悶々とする日々でした」

周りから人が離れていく錯覚に陥り、深い孤独感に襲われたという。休職と復職を繰り返し、新卒から勤めた会社を退職。そのあとも再発により何度も転職を重ねることになる。

こうした自身の経験から、精神疾患を持つ人々を支える事業に関わりたいと思うようになったという。

「当事者の方々の話に耳を傾けるうちに、予後が安定していて順調な人は、家族の理解やサポートがあったと言葉にする方が多かったです。私自身としても、家族の支えは不可欠という実感はありました。

でも、うつ病などの当事者を支える中では、つらい場面も多い。そこでふと、精神疾患を持つ患者さんの家族は誰が支えるんだろうと疑問が湧きました。

家族のお話を聞くと、それぞれ誰にもいえない苦悩を抱え込んでいました。当事者の家族の困りごとを受け止める場所を作りたいと思ったのが、『encourage』を立ち上げたきっかけです」

発症・通院、そのとき家族が直面する困難

精神疾患を抱える方の家族は、「患者さんに目が向くあまり、自分の心身のケアに意識が向きづらくなる」と林さんは語る。当事者が回復したあとに時間差で不調を感じるケースも多いという。

「うつ病などの精神疾患は、体調の波があり長期化しやすいんです。治療期間が長くなればなるほど、家族の肉体的・精神的負担は大きくなりますし、経済的にも不安を感じます。

コロナ禍の自粛生活で本人と過ごす時間が増え、衝突してしまいやすくなるとの相談も多くなっていると感じます」

うつ病などの精神疾患を持つ患者の家族が直面しうる困難とは、どのようなものなのだろうか。

「まず、発症してから医療機関の受診に繋げるのが難しいです。背景としては2つ考えられて、1つは本人が異変に気づいていないケース。もう1つは、家族が通院を勧めたとしても、本人が受診に抵抗感を持っていて拒まれるケースです。

本人ではなく、近くで接している家族などの方が先に普段と様子が違うことに気づくことが多いと思います。それでも、家族は本人に受診を勧めていいものかためらってしまう。

以前と比べると精神疾患への風当たりは弱まったと感じますが、それでもなお『うつ病は自己責任』という論調も根強く残っている。そうした世間の風潮が受診のハードルをあげ、治療の遅れにつながっていると感じます」

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