「ルール」から見た中台のTPP加入へのハードル 台湾が有利、国有企業の存在や労働者保護など中国には高い壁

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社会主義市場経済体制を採用する中国については、麻生太郎財務相などがすでに疑問を呈しているとおり、このような約束には相当の困難が伴う。

まず、CPTPPは締約国に対し、国有企業の行動が政府の意向に沿ったものではなく、あくまで商業ベースで行われることを確保するように求め、非商業的な資金提供や物品・サービスの提供を通じ、国有企業が他の締約国の企業・産業に損害を与えることを禁止する。もっとも、規律の対象となる国有企業は狭く定義されており、また国有企業の業種や規模による例外や適用除外の範囲も広い。また、地方政府企業についても今のところ適用がない。

しかしながら、中国では国有企業が実体経済に占めるウェートが特に大きく、中国石油化工集団、武漢鋼鉄、中国銀行といった世界的な大企業も多い。そのため相当部分の国有企業はその規律から逃れることは困難であろう。「国有企業3年改革方案(2020~2022)」ではCPTPP加入を意識した改革の方向性が見て取れる一方、安全保障の観点から国有企業の役割を重視する姿勢も示されており、中国の対応は予断できない。

中国はCPTPP基準クリアに厳しい分野も

次にCPTPPは、国際労働機関(ILO)1998年宣言の原則を確認し、団体交渉権の保障、強制労働や児童労働の撤廃等を義務づけるが、中国は団体交渉権及び強制労働に関するILO条約に批准していない。中国では労働組合は共産党の指導下にある中華全国総工会に加盟するもので、そもそも組合結成の自由が制約されている。また、新疆ウイグル自治区の強制労働もアメリカによるジェノサイド認定に加え、2021年6月のコーン・ウォールG7サミット首脳コミュニケでも懸念が示されており、看過できない。

電子商取引については、CPTPPはいわゆる「3つの自由」、つまり(1)情報の越境移動の自由、(2)データの保存されたサーバーの自国内設置要求の禁止、そして(3)ソースコード開示要求の禁止、を定める。中国のサイバーセキュリティー法は(1)、(2)に適合しない可能性が高く、さらにこれを補完するデータセキュリティー法と個人情報保護法が今年相次いで施行される。CPTPPは公共政策上の理由で一定程度(1)、(2)に反する措置を認めるが、中国法では安全保障目的を中心に制限を課す政府の裁量が極めて大きく、例外の範囲を逸脱することが懸念される。

(3)についても、過去にアップルやマイクロソフトに開示要求した例が報告されている。なお、中国はRCEP(東アジア地域包括的経済連携)ではこの点を意識し、(1)、(2)について安全保障理由例外の裁量を極めて広く確保し、また電子商取引ルール違反を紛争解決手続で争えないようにした。(3)については、今後の対話継続しか規定されていない。

知的財産権については、CPTPPではとくに音やホログラムなど新しい商標保護、農薬や医薬品の関連試験データや生物製剤特許保護、特許権や著作権の保護期間延長などWTO知的財産権協定を大きく上回る規定を導入している。昨今の中国では法令や執行体制の整備が進んだが、模倣品対策など実際の執行について課題を指摘されている。また、ここ数年の米中対立も強制技術移転、技術ライセンスに関する内外差別、サイバー盗用等が原因だった。WTOレベルの知財保護にも課題を残す中国には、CPTPPレベルに達するには遠い。

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