「ルール」から見た中台のTPP加入へのハードル 台湾が有利、国有企業の存在や労働者保護など中国には高い壁

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最後に政府調達については、CPTPPは、WTO類似のルールにより、政府や地方公共団体、公社等の公共調達を海外企業に開放することを義務づける。しかし、中国はWTO政府調達協定の加入に苦心している。また、中国はRCEPや既存のFTA(自由貿易協定)でも政府調達開放を約束していない。2020年1月施行の外商投資法は政府調達の内外無差別を規定したが、同年10月の日米欧の中国商会の報告書では、いまだに国産品優遇が残ることが危惧されている。さらに、2021年5月に中国財政省と工業情報化省が医療機器など315品目の国産優先調達を指示する指針を示したことが報じられ、むしろ事態は逆行している。

加入障壁が比較的低い台湾

台湾については、元々開放的な経済体制であり、蔡英文総統もすべての義務を受け入れる用意があると自信を見せるように、比較的課題は少なそうだ。台湾の国内制度を精査する必要はあるが、WTO貿易政策検討報告書、日米の不公正貿易報告書、また既存のFTAや投資協定(とくにCPTPP締約国であるニュージーランドとのFTA=ANZTEC、シンガポールとのFTA(台星FTA)など)から、ある程度の見通しが立つ。

まず、中国との対比で注目すべき点からいえば、国有企業は物品関係では砂糖、タバコ、酒、コメ、造船、サービスでは電気通信、金融、郵便、水道などの分野で存在している。もっとも、主要な国有企業は政府保有比率が比較的低いか、もっぱら国内公共サービスを提供するものであり、CPTPPの規律対象外になりそうだ。また台星FTAは、ごく簡単ではあるが、国有企業に関連する競争歪曲的措置の導入を禁止しており、台湾はCPTPPの規律と一部重なる義務をすでに引き受けている。

電子商取引については、他のFTAでも「3つの自由」を含む高いレベルの約束は行っていない。2019年の欧州国際政治経済研究所(ECIPE)による調査では、台湾のデジタル貿易関連の規制水準は日本より厳しいと評価されるが、これは主にデータ関連産業における厳格な外資規制によるもので、データ移動の自由度そのものは低くない。具体的措置としては個人情報保護法によるデータ越境移転の制限が指摘されているが、ここでCPTPP整合性を求められることになろう。

労働については、「一つの中国」の原則の下でILOに加盟できない台湾は、ILOの関連条約を批准していない。他方、中国の強制労働を厳しく指弾したアメリカ国務省人権報告書には、台湾による労働者への権利侵害について言及はない。しかし、国内では台湾漁船における外国人船員の組織的な強制労働が指摘されており、台湾監察院が関係省庁に対応を指示したことが報じられている。今後、米台貿易投資枠組み協定(TIFA)によってこの6月に設置された作業部会でもサプライチェーンにおける強制労働の問題が検討されるので、いずれ是正に向かうと見られる。

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