日本政府が虚を突かれた中国「TPP加入」の裏側 中国が恐れるのはアメリカの拒否カードだけ

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国有企業への優遇措置、ネット上のデータ移転への制限、知的財産の保護の不徹底など、中国には市場開放の要求度が高いTPPのルールに抵触する要素が数多くある。また新規加入には基本的に参加国すべての同意が必要だが、TPP参加国の中には日本だけでなくオーストラリアやカナダなど中国との関係に問題を抱えている国が少なくない。

オーストラリアは新型コロナウイルスの発生源に関して独立調査を求めたことで、中国の猛反発をかった。2020年5月以降、中国はオーストラリア産の大麦やワインに高関税を課すなど関係が悪化している。テハン貿易相は中国のTPP加入について「解決すべき重要な問題がある」との声明を出して中国にクギをさした。

アメリカが持つ強力な“カード”

この状況で中国に勝算はあるのか。国務院発展研究センター世界発展研究所で副所長を務めた政府系エコノミストの丁一凡氏は「中国もアメリカもいないTPPの経済メリットは大きくない。それだけに日本がどこまでも反対するとは思えない。中国との懸案を抱えるオーストラリアもむしろTPPに入れることで中国を牽制できると思っている。本当に交渉のネックになるのはカナダとメキシコだ」と指摘している。

2020年8月に発効したアメリカ・メキシコ・カナダ協定(USMCA)には、3カ国による自由貿易協定(FTA)だが、うち1カ国でもアメリカが「非市場経済」とみなす国とFTAを締結した場合、他の参加国は6カ月後にUSMCAから離脱し、新たな二国間協定に置き換えられるよう定められている。この「ポイズン・ピル(毒薬条項)」によって、アメリカは中国のTPP加入についての「拒否権」を、カナダ、メキシコを通じて行使することができるのだ。

カナダとメキシコのアメリカへの経済的依存度を考えれば、両国がアメリカの意向に逆らってまで中国のTPP加入に協力するとは考えにくい。加入に反対するか、あるいは加入条件を引き上げるか。アメリカはTPPの外から事態を動かす強力なカードを握っているわけだ。一方、中国は日本やオーストラリアは経済的利益で動かせると踏んで、あくまでアメリカの動向だけを気にしているように見える。

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