日本政府が虚を突かれた中国「TPP加入」の裏側 中国が恐れるのはアメリカの拒否カードだけ

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シンクタンク「全球化智庫」の創設者で国務院の政策ブレーンである王輝耀氏は中国におけるTPP参加論の代表的な論客だ。王氏は9月22日発表した論説でTPPを「ミニWTO」として加入による中国の経済改革が進むメリットを説いたうえで「アメリカ、日本、オーストラリアは、中国をそう簡単には参加させないだろうが、時間と市場は中国とASEANの側にある」と指摘した。

中国がいよいよTPP加入申請に踏み切った背景では、こうした経済改革への期待と、米中対立のもとでの地政学的な思惑が混然一体となっている印象がある。中国の通商政策に詳しい日本政府関係者は「『アメリカのいない間に勢力拡大できます』などと、取り巻きに習近平が吹き込まれて、その気になったのでは。交渉の実務に当たる商務部などは本気で実現するなどと思わずに、忖度で動いているだけだろう」とみる。

台湾加入をめぐる分断も

ことの真相が見えてくるのはかなり先のことだろう。いずれにしろ、中国を頭から排除することはシンガポールなど中国寄りのグループと日本、オーストラリア、カナダなどとの分断を深める可能性がある。

2001年のWTO加入の際にも中国と同時に台湾が加入交渉を進めていたが、「中国は自国に近いパキスタンに、台湾のWTO参加に反対するよう働きかけた」(当時交渉にあたった元台湾政府高官)。最終的には台湾の承認を中国の1日後にすることで妥協が図られたが、今回も台湾の加入をめぐって加盟国が分断される可能性はありそうだ。

アメリカのバイデン政権はTPP復帰に積極的な姿勢を見せておらず、少なくとも2022年11月に中間選挙が終わるまでは動けないとみられる。自国に有利な貿易秩序の形成を狙う中国には、このチャンスを狙ってTPP内部をかき回すだけでもメリットがある。アメリカが復帰するのを待つだけではなく、日本が自ら動かないと存在感を示せない。

日本としては「体制の違いを理由に中国を理不尽に排除している」という批判を許さないために、まずは「申請は歓迎するが、基準はきちんとクリアしてもらう」と表明するべきだろう。9月28日にはイギリスの加入に向けた交渉を行う作業部会が初会合を行う。イギリスの加入交渉を急ぎ、できるだけ高い基準での加入を実現することが重要だ。

西村 豪太 東洋経済 コラムニスト

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にしむら ごうた / Gota Nishimura

1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。

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