日本政府が虚を突かれた中国「TPP加入」の裏側 中国が恐れるのはアメリカの拒否カードだけ

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加入に向けて中国が当てにしているのは東南アジア諸国からの支持だ。TPP加入申請に先立つ9月13日、14日には中国の王毅外相がシンガポールを訪問した。そのことを伝えるシンガポール外務省の発表文には、同国外相の「TPPに中国が関心を寄せていることを歓迎する」とのコメントが入っている。同月21日にはマレーシア政府も中国の加入申請を歓迎する声明を発表している。

シンガポールは2022年のTPP委員会の議長国。その先の2023年にはニュージーランドが議長国に予定されている。同国は2008年に先進国で初めて中国とFTAを結び、2021年に入ってニュージーランド産品の対中輸出に有利になる形で協定を結び直している。

こうしてみると日本が議長国から外れる2022年以降は、中国にかなり追い風が吹く可能性がある。中国同様に社会主義国で国有企業問題を抱えるベトナムは、途上国であることを理由に例外規定が適用されTPPに加入できた。こうした例外措置を設けることで中国加入のハードルを下げる、といった提案も出てきそうだ。

中国にとってのTPPの価値

日本が主導して2018年末にTPPの枠組みが発効したものの、加盟する11カ国を合せても経済規模は中国に及ばない。2017年にアメリカが脱退したことで、中国が慌てて動く必要はなくなった。

ところが、米中対立の高まりに伴い、中国は再びTPPの“利用価値”に着目する。トランプ政権が攪乱した国際経済秩序を再構築するうえで、中国が発言権を高める余地が生じたためだ。2020年5月には李首相が全人代後の記者会見で「TPP参加にはオープンで積極的だ」と発言。李首相は2014年にも同様なコメントをしているが、前向きなニュアンスはより強まった。

さらに2020年11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で習近平国家主席が「TPPへの加入を積極的に考える」と表明したことで、TPPへの参加は国策として動き出した。最近では中国人民銀行(中央銀行)前総裁の周小川氏のような大物もTPP参加論のオピニオンリーダーを買って出ている。周氏は日本の有識者とも接触するなどして、TPPの研究を積極的に進めてきたもようだ。

中国には2001年のWTO(世界貿易機関)加入によって経済制度の改革が進み、産業の競争力が向上したという成功体験がある。TPP加入でその再演を狙う動きが経済テクノクラートの間で続いてきた。

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