中国人はマイホームを持つということに、並々ならぬ強い思いがある。それゆえ、中国の不動産バブルは、ごく一般の庶民の間にも勝ち組と負け組を生んだ。特に北京では、北京五輪とリーマンショックが一緒にやってきた2008年あたりを分水嶺に、マイホームをなんとか買った人と買えなかった人の明暗がよりくっきりと際立ってきたようだ。そんな負け組と勝ち組の2人の女性の話をレポートする。前編は「負け組」の話。
「マイホームもマイカーもそのうちでいいわ」
小梅(仮名)は約7年前、30代半ば過ぎで、中国的に「遅め」の結婚をしたとき、そう話していた。招かれた新居は40平方メートル2DKの古い借家で、6畳ほどの窓のない暗いダイニングルームに、中古の家具が申し訳なさげに鎮座していた。
男性が結婚前にマイホームを用意するのが当たり前、新居には真新しい家具が並んでいるのが「普通」であるこの国で、彼女のような地味婚は少数派だった。
友人の紹介で知り合ったという同い年の夫は、人のよさそうな朴訥なサラリーマンで、外資系メーカーの工場勤めだった。マイホームも買えない「貧乏人」というわけではなく、月1万元程度の収入はあった。
ちょうど仕事に行き詰まっていた小梅は妊娠を期に退職し、専業主婦になった。「週末には夫が料理を作ってくれる」と幸せいっぱいだった彼女は今、マイホームがないことに強いストレスを感じているという。ある日、ランチをしながら、彼女の愚痴を聞くことになった。
不動産価格が10倍になったところも
――マイホームがないのがストレス?
実のところ、マイホームというのは中国人の夢なの。中国の家庭には、「絶対、自分たちの家を持たなくては」という強迫観念のようなものがある。外国人は、借家でも住むところがあればそれでいいじゃないかと思うかもしれない。実際、そうだとは思うのだけれど、心理的にはマイホームを持っていないという現実をどうしても受け入れられない。
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