不動産にバブルの兆候、対応迫られる英国中銀 リーマンショック前を上回る住宅価格に

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イングランド銀行(BOE)のマーク・カーニー総裁は「住宅市場には構造的な問題がある」と指摘した(写真:Getty Images)

英国で再び住宅市場が過熱している。その“牽引役”はロンドンだ。足元の住宅価格は2007年につけたピークの価格を2割近く上回っている。地元紙によれば、ロンドンの住宅価格は、15軒に1軒が100万ポンド(約1.7億円)以上ともいわれ、もはや一般市民には手が出せなくなりつつある。

もともと、持ち家志向が強く、核家族化の進展や平均寿命の上昇などもあり、英国の住宅市場はおおむね、需要超過の状態にあるとされる。高騰が続くロンドンに限れば、海外や地方からの人口流入、国内外の投資資金流入が価格をさらに押し上げている。

近年の政策支援による影響も大きい。イングランド銀行(BOE)の「FLS」と呼ばれる金融機関向けの貸し出し促進策と、政府の「Help to Buy」と呼ばれる住宅ローン優遇政策がそれだ。

前者は、中小企業や家計向け貸し出しの促進を狙い、貸し出しを純増させた金融機関に資金調達上の優遇を与えるというもの。しかし、FLS後も企業向けは伸びず、資金は住宅に向かった。後者は、政府が住宅ローンの一部を融資または保証し、自己資金5%でローンの組成を可能にする仕組み。昨年3月に財務省がこれを発表すると、住宅ローンの問い合わせが急増した。

急速な住宅価格上昇は、将来のバブル崩壊につながる。BOEのマーク・カーニー総裁は5月、テレビのインタビューで「住宅市場には構造的な問題がある」と述べ、金融システムの安定性を脅かすものとして、不動産価格高騰に警戒感を示した。

“山火事”の防ぎ方

金融システム不安定化への政策対応として、リーマンショック後に重視されているのが、「マクロプルーデンス」と呼ばれる考え方だ。簡単に言えば、個々の金融機関の健全性のような「木」だけ見るのではなく、金融システム全体に影響を与えうる住宅バブルのような「森」を見て、山火事が起こりそうな原因に事前に対処しようとする政策だ。

この政策の最終的な意思決定を行うのは、BOEの中に設けられた「金融安定政策委員会(FPC)」で、13年4月に正式に発足した。FPCはカーニー総裁が議長で、最低四半期に一度会合を開き、必要に応じて政府や関係当局に勧告や指示ができる。

すでにFPCでは昨年11月の金融安定性報告書の中で、住宅バブル崩壊に伴うリスクを低減するための手段として、銀行の資本強化策やストレステストの実施など、複数の項目を掲げた。これに対応する形で、FLSの対象から住宅ローン向け貸し出しは外された。だが、住宅価格上昇は収まっておらず、FPCが次回6月17日の会合で、追加策を発表するかどうかが注目されている。具体的には、「Help to Buy」の縮小を財務省に勧告するか、過度な住宅融資を行っている金融機関に対し規制強化を勧告することなどが考えうる。

伝統的な金融政策である利上げも考えられるが、経済が回復途上にある中、拙速な利上げは投資の減退など国内の需要を抑制し、BOEのもう一つの責務である「物価の安定」を脅かしかねない。予防措置として、どのようなマクロプルーデンス政策を講じるのか。BOEの手腕が試される重大局面といえよう。

週刊東洋経済2014年6月14日号〈6月9日発売〉掲載の「核心リポート03」を転載)

吉田 健一郎 みずほ総合研究所 上席主任エコノミスト

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よしだ けんいちろう / Kenichiro Yoshida

1996年一橋大学商学部卒、富士銀行(現みずほ銀行)入行。対顧客為替ディーラーとして勤務の後、2004年からみずほ総合研究所に出向。20089月よりロンドン事務所長、201410月より現職。ロンドン大学修士(経済学)。著書に『オイル&マネー』(共著、エネルギーフォーラム社)、『迷走するグローバルマネーとSWF』(共著、東洋経済新報社)など。

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