イスラエルの調査で判明「ブースタ接種」の難題 感染予防の底上げ効果は高齢者で数週間
バイデン大統領のパンデミック対策で首席医療顧問を務めるアンソニー・ファウチ氏をはじめとする連邦保健当局の高官は、ワクチン接種の効果が時間の経過とともに低下することを示唆するイスラエルのデータなどを根拠に、ブースター接種計画を正当化してきた。
そのためアメリカ国民には、正式に認可される前から、ブースター接種を受けようと先を争う動きが一部で見られる。しかしブースター接種計画に対しては、政府の科学者からも懐疑的な見方や怒りが向けられるようになっている。
「予防可能な死」を防ぐことが先決
アメリカ食品医薬品局(FDA)でワクチン部門を率いていた2人の科学者がこの秋に退任すると発表した理由の1つは、連邦政府の研究者によるエビデンス(科学的証拠)の精査を待たずしてブースター接種を推し進めようとする政権への不満だという。
13日には、退任するFDA高官を含む国際的な科学者グループが、ブースター接種の推進を強く非難した。同グループは医学誌「ランセット」で論文を発表し、数十の研究を分析した結果、ワクチンは数十億人の未接種者を守るのに使ったほうが世界のためになると結論づけた。
「今回のパンデミックにおける私たちの第1目標は、まず予防可能な死をすべて回避し、終わらせることにあった」と、世界保健機関(WHO)のチーフサイエンティストで、ランセットの論文の共著者でもあるスミヤ・スワミナサン氏は述べた。「私たちはそのための非常に効果的な手段を手にしているのだから、世界中で(予防可能な)死を防ぐのに使うべきだ」。
ウイルスがデルタ株よりもさらに危険な形態に変異し、免疫を完全に回避する変異株が出現するのを防ぐため、ブースター接種よりも未接種者を減らすほうが課題としては緊急性が高いと専門家らは言う。
ブースター接種の効果に関するイスラエルの今回の研究は、60歳以上の住民110万人以上の健康記録に基づくもので、ブースター接種から少なくとも12日後の感染率は2回しか接種していない人に対し11分の1、重症化率は20分の1近くにまで下がっていたことが確認された。
ただ、研究者は結果が暫定的なものであることを認めている。エルサレム・ヘブライ大学のミハ・マンデル教授(統計学・データサイエンス)は「長期的にどうなるかは、現時点ではわからない」と語った。