「マンモス復活」ベンチャー、その驚愕の事業内容 シベリアに遺伝子編集ゾウを放つとどうなる?

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コロッサルのベースとなる構想が初めて公になったのは2013年。ナショナルジオグラフィック協会の講演でチャーチ氏がその概略を明かしている。

当時、化石から回収したDNAの断片をもとに絶滅した生物のゲノムを再構築する方法が明らかになりつつあった。古代の生物種と現代の近縁種との遺伝子の違いを突き止めることが可能になり、その遺伝子の違いがどのように体の違いとなって現れてくるのかを解明する研究も開始されていた。

DNAを解読し編集する方法を発明したことで知られるチャーチ氏は、現存する近縁種の遺伝子を書き換えれば絶滅した生物を実質的によみがえらせることができるのではないか、と考えた。アジアゾウとマンモスには約600万年前に生きていた共通の祖先がいるため、ゾウのゲノムを編集すれば姿も行動もマンモスに近い動物を作り出せる可能性がある、というわけだ。

気候変動対策に役立つという大義

マンモスをよみがえらせる試みは、単に科学的な好奇心を満たすだけでなく、環境保護につながる可能性もあるというのが、チャーチ氏の立場だ。かつてマンモスが草を食んでいたシベリアや北アメリカのツンドラ地帯では今、永久凍土に閉じ込められていた二酸化炭素が、急速に進む温暖化のせいで大気中に放出されるようになっている。

「マンモス(の復活)は理論上、こうした問題の解決策になる」とチャーチ氏は講演の中で述べている。

ツンドラ地帯は今ではコケに覆われているが、マンモスが生きていたころは大部分が草原だった。研究者の中には、マンモスはコケの広がりを抑え、木を押し倒し、排泄物で土壌に栄養を与えるというように、生態系の中で草原を維持する役割を果たしていたとする説がある。

実際、ロシアの生態学者らはシベリアに「更新世パーク」なる保護区を設け、そこにバイソンなど現存する動物を移入させることでツンドラを草原に戻そうとしている。チャーチ氏は、マンモスをよみがえらせることができれば、同様の取り組みをもっと効率的に行えるようになると論じている。草原が復活すれば、凍土が溶けて浸食される事態が防げるほか、温室効果ガスを地中に閉じ込める効果も期待できるという。

チャーチ氏の提案はメディアから多くの関心を集めたが、資金はペイパルの共同創業者ピーター・ティール氏からの10万ドル以外にはほとんど集まらなかった。そのためチャーチ氏の研究室は、もっと資金の集まる実験計画をマンモス研究の土台とした。

「このツール群は、絶滅した生物を復活させたり人間のゲノムを記録したりと、さまざまな目的に使える」(ハイソリ氏)

ハイソリ氏らの研究グループは、化石から回収したマンモスのゲノムを解析し、ゾウのゲノムと特に異なるものをリストアップ。体毛、脂肪、頭頂部が高く盛り上がったドーム型の頭蓋骨など、マンモス特有の特徴を生み出すのに重要な働きをしているとみられる遺伝子を実験で60個に絞り込み、そこに研究の精力を注ぎ込んでいる。「正直なところ、研究の進捗はもっとゆっくりしたものになると考えていた」とチャーチ氏は言う。

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