次期総理に伝えたい「世界標準の財政政策」の正解 ケチにも浪費にもならない「賢い投資」が常識
しかし、(5)の過当競争と(6)の過剰供給については、十分な考慮が必要です。この2つの要因を無視して「日本のデフレの原因は総需要の不足であり、それを補うための財政出動が必要だ」と結論づけることはできません。
日本は以前から企業部門が過当競争になりやすいと言われています。特に戦前は競争が凄まじかったので、戦後から1990年代まで、護送船団方式が適用されました。財政出動派は、この点をまったく無視しています。
さらに、彼らがほとんど注意を払っていない重要なポイントがあります。人口動態による需要ショック・過剰供給の問題です。
一般的な国では、継続的に人口が増えていますので、短期的に供給が過剰になっても、やがて自然と需要が追いついてきます。人口が増えているからです。このような国では、財政出動をして、新しい消費者にお金を回せば、なおさら需給が改善します。消費してくれる人が増えているからこそ、需要者にどうお金を回すかを考えるdemand-side economicsの理屈に意味が生まれるのです。しかし、これはあくまでも人口が増えている国の経済学です。
私は、緊縮財政をデフレの主因であると主張する人は、日本が少子・高齢化社会であることを軽視しすぎていると思います。
高齢化が進むと、消費するものとサービスの中身が大きく変わるうえ、1人当たりの消費額が減る傾向が強いです。例えば、医療、介護などの需要は確実に増えますが、大きく減る項目もあります。
同じ1億2000万人の人口でも、高齢化比率が5%と30%とでは、需要されるものが大きく異なります。そして総需要自体も、後者のほうがかなり低くなります。単純なマクロ分析では、国民1人ひとりの需要を見ることなく、全体を一括りにしてしまうので、高齢化によるミクロの需要減少を見落とす評論家が多いのです。
また、企業はその都度供給を減らし、それまでとは違う需要に対応するように切り替えないと、その分野が供給過剰になります。その結果、生き残りをかけた価格競争が始まり、価格が下落することになるので、ミクロレベルのデフレになります。
IMFが発表した「Impact of Demographic Changes on Inflation and the Macroeconomy」という論文では、次のように説明されています。人口が増えて需要が増えている間はインフレ圧力が強くなるが、企業は増えた需要に対応するため早いペースで供給を増やすので、インフレ効果は緩やかになる。逆に、人口が減って需要が減る時代には、企業が供給を減らすには時間がかかることが多い。時間がかかればかかるほど、デフレ圧力が長期化する。
これがまさに、今の日本で起きていることです。日本は現状維持志向が強く、現状を維持するために政府が補助金などを出す傾向も顕著なので、供給側(企業)の対応力は相対的に低いのです。
人口減少が起こす供給過剰を無視する財政出動派
このように高齢化による影響は大きいのですが、それ以上に最も大きな影響を及ぼすのが総人口の減少です。総人口が減るということは、他の条件を同一にすると、慢性的に需要が減少することを意味します。
当然ですが、経済の最大の支えである個人消費の総額は「人口×1人当たりの消費額」です。日本人1人当たりの消費支出は約300万円です。
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