「お客様の声」から良いアイデアが生まれない理由 発言よりも「行動」に着目することの重要性

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この古典的な例では、「ユーザーは、日々の業務で使うコピー機のボタン配置や高度な機能に(開発者が期待する程度には)注意を払っていない」というインサイトが調査から導かれ、それをもとに「いちばんよく使うボタンだけ目立つようにしておけば使い勝手が向上する」というアイデアに行き着きました。言われてみれば当たり前のようにも聞こえますが、製品開発者など、当該製品に詳しい人や思い入れの強い人がこうしたことに気づくのはなかなか難しいものです。

また、コピー機を使っていたオフィスワーカーたちは、「コピーをとるのは面倒だ」とか、「機械の操作が難しい」といった感想は抱いていたかもしれませんが、「コピー開始ボタンだけを目立たせて欲しい」とはおそらく考えていなかったでしょう。「コピー機で改善して欲しい点は?」と直接問うてみたとしても、考えていないことは回答として出てきません。

調査対象者の発言ではなく行動に着目することで、対象者自身も気づいていないようなインサイトが得られるという点が、実際の現場を観察する最大のメリットです。

アイデアの「打率」を上げるために

良いアイデアを生み出すにあたって、徹底的に観察を行うことと、それによって導かれるインサイトが重要であることは、製品開発・サービス開発に限らず当てはまります。

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例えば企画を考えるとき。よく、「企画はひねってなんぼ」のように言われることがありますが、インサイトがない状態で、ただただ要素Aと別の要素Bをひねってくっつけたような企画には根拠がありません。言ってしまえば当てずっぽうであって、成功するかもしれないけれども、失敗するかもしれない。その企画を誰に届けたいのか、その人たちはどんな人で、何を感じ、何を潜在的に求めているのか。こうしたことをわかっていないから、変にひねるようなことになるのです。

コピー機の例でも、「正解」は非常にシンプルでした。インサイトやそれにもとづく仮説に対して、シンプルに解を出そうとする姿勢が、打率高く良いアイデアを生むことにつながると私は考えています。

繰り返しになりますが、アイデア資本主義においては、良いアイデアを生み出せるようになることが重要です。そして勘に頼らずに良いアイデアを生み出すためには、インサイトを捉えた上で企画書や新しい製品・サービスについてのアイデアを具現化していく必要があると言えるでしょう。

大川内 直子 文化人類学者

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東京大学教養学部卒業。東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。専門は文化人類学。修士課程在籍中に文化人類学の方法論をユーザーリサーチに応用することに関心を持ち、海外リサーチ案件を個人で請け負う。みずほ銀行本店営業第十七部に所属し、大手通信企業グループに対するコーポレート・ファイナンスに従事。2018年株式会社アイデアファンドを設立、代表取締役に就任。アイデアファンドではフィールドワークやデプスインタビューなどの手法を活かした調査を数多く手掛け、国内外のクライアントの事業開発・製品開発に携わる。その他、国際大学GLOCOM主任研究員、昭和池田記念財団顧問。1989年、佐賀県生まれ。

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