「お客様の声」から良いアイデアが生まれない理由 発言よりも「行動」に着目することの重要性

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このように、アイデア資本主義においては良いアイデアを生み出せるようになることが極めて重要です。しかし、良いアイデアを生むのは簡単なことではありません。モノ余りが進行し、不足を埋めるものを作れば売れるという時代ではなくなりました。不足のない社会というのは、人々(消費者)がどうしても必要とするものが特にない社会です。

欲しいものはあるかもしれませんが、まだ存在しないものについては彼ら自身も自分が本当に欲しているのかどうかなど当然よくわかっていません。先にも触れたように、いま、人々(消費者)が何を求めているのかが非常にわかりづらくなっています。

そのような中で、良いアイデアを生むためのキーとして重要なのが、インサイト(insight)です。インサイトとは英語で洞察や見識といった意味をもつ単語ですが、マーケティングの文脈では消費者の言動の背景にある、ないし言動を生み出す心理のことを指します。

新しいアイデア自体はある要素と別の要素の掛け合わせなど、色々な方法で生み出すことができますが、乱雑に生み出したアイデアが良いアイデアであることは多くありません。確度高く良いアイデアを生み出すには、良いアイデアを生み出すための「根拠」が必要になります。その「根拠」が、消費者についてのインサイトなのです。

そしてそのインサイトを見つけ出すには、消費者の思考というフィルターを通した産物である「発言」ではなく、日常の中での自然な「行動」に着目する必要があります。

コピー機の当たり前を変えた「ある気づき」

人々の行動を観察することで製品の使いやすさを大幅に改善するアイデアを得た、有名な事例があります。Xerox PARC(Xerox Palo Alto Research Center)という研究所は、早くから人類学者や心理学者などの社会科学者を雇用して、ハードウェア機器等の開発にその知見を取り入れていたことで知られています。現在ランカスター大学で科学技術人類学を教えているルーシー・サッチマン教授(Prof. Lucy Suchman)もその一人でした。

PARCのリサーチャーとして、オフィスワーカーがコピー機を使う様子を観察していた彼女は、彼らが何やらコピーを始めるのに手間取っているようだと気づきます。この問題は、コピー開始ボタンがその他のボタンと同じような形状で、区別しづらいことによって生じていました。すなわち、コピー機には色々な機能やボタンがあるものの圧倒的に使用頻度が高いのはコピー開始ボタンであるため、このボタンさえわかりやすくしておけば作業が随分とスムーズになるということが観察を通じて導き出されたのです。

その後、「緑色の大きなコピー開始ボタン」はデファクト・スタンダードになりました。皆さんも、職場やコンビニでコピー機を目にする機会があれば、ぜひコピー開始ボタンに注目してみてください。いまも多くのコピー機には緑色の大きなコピー開始ボタンが付いていると思います。

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